本

『お値打ちワイン厳選301本』

ホンとの本

『お値打ちワイン厳選301本』
柳忠之・石田博
講談社
\1470
2011.10.

 こうした本の紹介は実のところ困惑を隠せない。
 これが一年後も通用するのかどうかさえ知らない。また、いくら素晴らしい経験と舌をもっている方であり、それを職としている方であるとはいえ、特定の個人である二人によるワインの紹介を、どれほどに権威づけてよいのか、あるいはまた読者によっては、もう価値の決定のように扱ってよいのかどうか、やはり私としても迷いがある。
 どだい、私もワインの味が分かるわけではない。ボトル千円を越えるワインを購入するとなると、かなり勇気が要るくらいなのである。
 この本の特色を言えば、やはり表紙にあるように、輸入元が推薦するワイン1500本を試飲してまとめた本であるというのが一つ。それをお二人が採点をしている。もとよりその採点が大きく開くことのないように、20点満点というようにやわらかなものではある。
 それから、これは一般読者にはうれしいことなのだが、何も通のワインを集めたり、現実に庶民に縁のないようなワインを気取っていたりするのではなく、ここにあるのは、まだ一般人が買えるような範囲に留めているということだ。中でも触れられているが、なにも値段が高ければ美味しいとは限らない。そういうスタンスの中で、生産国別であるのはもちろんのこと、価格で区切って紹介されるのは、一つの工夫であろう。
 2000円以下という中で比べられている、あるいは特徴づけられているというのは、私などが真っ先に見るところだ。むしろ、そこしかもう見ることができない、とさえ言えるほどだ。それから4000円以下というあたりでもカテゴリーが作られている。これももしかするとちょっとした贅沢な気分で味わえるかもしれないという希望くらいはもつ。そしてそれをいくらか越えるところでも、お勧めのものがいくつか挙げられている。
 けれどもまた、ここにある希望小売価格と実勢価格とはそこそこ違うものらしく、実際に手に入れる場合には、ここにある価格だけ準備しておけば、よいおつりが来るであろうと思われる。これは嬉しい。
 もちろん味を言葉で紹介するなど、どだい無理なものである。第一、ひとりひとりが自分の舌で味わい、それを好むかどうかという点でも千差万別には違いない。それを二人だけがまとめるというのは無理があろうものだが、逆に言えば、二人の評価や価値観が明らかにされていく中で、この人がここまで言うのならこれはいいだろう、などと読者は判断がつくこともある。
 他にも、比較的安価で買えるワインを紹介する企画もよく見かける。他の本では、その本を買うくらいならばワインが一冊買えるという前提のもとに、安かろうがともかくワインを楽しめるような基本を示そうとする人もいた。いわばこの本も、それに近い。この価格別という点にそれを感じる。しかしまた、五千円くらいしても、結婚記念日に出そうとか、贈り物として使おうとか思う人にも役立つような情報がこの本の中で与えられているというのは、適切なことだと言えるかもしれない。しかもそのクラスとして、一万円出してもおかしくないというようなものをこの本では取り上げているという。できるかぎり価格としては抑えつつ、価値あるワインを選んでいこうとする意気込みである。これはメーカーとしては厳しいかもしれないが、利用者にとってはよい知らせだと言えるだろう。
 興味深い対談もある。温度は一度刻みで飲み頃のポイントがあるなどと聞くと、ひええと叫びたくもなるが、グラスの形状で、どういう香りが強調されるかという説明には、ハッとさせられた。いったい、それほどの違いが自分に分かるかどうかはさておいて、ちょっとした話の種にはなるかもしれない。そして、ワイングラスがお決まりのものであるという先入観を取り除いてくれたという点は、ありがたいと思うものである。




Takapan
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