本

『なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか』

ホンとの本

『なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか』
ダウエ・ドラーイスマ
鈴木晶訳
講談社
\2520
2009.3

 タイトルは、一定の年齢を重ねた人なら誰もが感じる疑問である。それだけに、ちょっと気になって書店で手にとってみる可能性が高い。その上で、その何%かにあたる人が、その本を購入するかもしれない。まずは、手にとってもらえるか、心をキャッチするか、そこが問題である。
 そういうわけで、私は図書館で手に取ることになるわけだが、本のサブタイトルが「記憶と時間の心理学」とある。少々の心理学の心得があれば、手に取った上で目次やあとがきなどを見る可能性が高くなる。
 著者は、オランダの心理学の教授、ではなくて、心理学史の教授なのだそうだ。原題も日本語のものと同じようであるから、こういう消費者心理を読んだ上でのタイトルなのだろうと感じた。
 ただし、このタイトルは、この本の中の一つの章に過ぎず、本そのものは、かなり独立性の高い17の章から成っており、全く別々の原稿だと思って読んでもさほど違和感は覚えない。逆に、関心のあるタイトルのところだけ見ても楽しめそうである。
 さて、心理学史の教授であるから、この本はあくまでも心理学的な見解に留まる。決して、大脳生理学の領域に踏み込むというほどのことはなさそうであり、また宇宙物理の論理に迷い込むこともない。
 心理学の歴史を操る著者であるということは、あらゆる心理学者の報告から、興味深い内容をピックアップして、またそれに対して自分の見解をまとめていことになるく。こういう仕事も必要なのだと強く感じた。たしかに論文には最新鋭の研究が発表され、学会のほうでは様々な論が戦わされ、より確かな理論がまとめられていっていることだろう。だが、一般人がそれを広く知るということは、めったにない。よほど奇異な説や、あるいはひょんなことから話題に上った説ならば、マスコミを通じて、その奇抜なところだけがクローズアップされ、本来の学問とは別個のものとして流通し人口に膾炙するということは、ままあることであるが、それが一般の人々の役に立つようには思えないことがしばしばである。適度にまとめを施して、適度に読者が関心を持ち、一定の知識のある読者だけであってもよいから、そこそこ一般社会に伝えられるようになることは、こうした学問にとって、悪い結果を及ぼすものではないだろうと信ずる。
 ところで、この疑問に対して、この本の中で解答が示されているであろうか、というと、やはり否と言わざるをえない。その点で、タイトルは適切ではないことになる。このあたり、様々に与えた情報から読んだ人に満足を与えることになるのか、それともタイトルが不消化だからと反発を覚えさせるのか、そこまでは心理学者としても一定の見解はもてなかったのではないか、と思われる。
 私は個人的に、サヴァン症候群の内容に目を開かれた。たしかに、異常な──という表現が適切であるのかどうかは分からないが、一般的にそういう表現で言われるような──記憶の才能があることは知っている。そのメカニズムが解明されるわけではないのだが、様々な事例を提供するという、この本のたぶん大きな目的には沿うものであろうと思われるから、やっぱり楽しく読ませてもらった、と言っておきたいと思う。




Takapan
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