本

『猫はなぜごはんに飽きるのか?』

ホンとの本

『猫はなぜごはんに飽きるのか?』
岩ア永治
集英社
\1600+
2023.1.

 表紙が目を惹く。カリカリを両手でもつ男性の前に座った白黒の猫が、右手で男の顔に突っ張りを入れている。ごはんの拒否である。
 サブタイトルに「猫ごはん博士が教える「おいしさ」の秘密」という言葉が付せられており、これが実に本の内容を裏切らないものとなっている。まる1冊、猫のごはんについての、科学的な説明となっている。
 本書のひとつの大きな鍵は、「新しいもの好き(ネオフィリア)」という性質である。猫は基本的そのように好奇心をもつものであり、食べ物についても同様であるのだという。しかし、なんといっても猫は個体差が大きい。猫はすべてこうである、というような決めつけ方をする本ではない。だが、こうした性質がある、という研究は、もちろん役立たないはずがない。自分の家の猫にすべて当てはまるというのではなく、猫というものはこうした性質をもつことが多い、あるいは気をつけたほうがよい、という意味では、実に重宝する知識を提供してくれるのではないだろうか。
 猫の感覚について分かっていることから解説が入り、本書のエッセンスである「味覚」に大きくスペースをとる。これは素人では知り得ない情報であろう。甘み・酸味・塩味・苦味・脂肪味・旨味と一つひとつ取り上げて、丁寧に説き明してくれる。  魚については、日本での常識は世界の非常識だとよく言われていた。だが、実際に魚を獲る猫がいるという話や、魚の味についての猫の好みについて、筆者は、有意味であるという立場を以て綴っている。これは興味深かった。
 また、幼少期の経験が嗜好につながることは、人間でも多分にそうであるが、猫にとっては大きいという。私の通う公園の地域猫でも、カリカリを好む猫もいれば、それを拒む子もいる。猫缶にしても、ブランドの好みがはっきりしていることがあり、そのために管理者はAmazonの「ほしいものリスト」で、それ相応の猫缶をちゃんと挙げている。ボランティアさんは朝夕と交代で餌を与えに回るのだが、置き餌はカラスなどを呼ぶほかに、腐敗などすると猫の健康のためにもよくないために、細かな気を配っている。しかし、本書によると、猫は1日に十回くらい食事をちびちびとするものだ、ということらしく、餌を配付される地域猫たちも、草の中の小動物を狙っている姿を見たことがあるから、それなりに逞しく生きているのだろうと思う。時に餌の時間にどこかに行ってしまい、ありつけないような子も多く、ボランティアさんは出会えなかった猫のことを日々報告することになっているというが、きっと自力で何か食べているに違いないとは思う。
 科学的だと言ったが、キャットフードの開発に向けられた探究の実情も明かされ、それぞれ大変なのだと思わされる。また、猫のタイプ別に、適切な食生活を送るための知恵を細かく教えてくれるのも、親切である。
 もちろん、気をつけなければならないことについても、解説が詳しい。とくに肥満は猫にとり致命的な事態を招きかねない。そのとき、避妊去勢手術の影響にも触れられ、オス猫の場合特に、ホルモンの関係で、過食の懸念があるのだ、と書かれている。
 こうした知識は、地域猫の管理のためにも重要であるような気がする。今度コンタクトをとるとき、本書についてお伝えしてみようかしら、と思っている。




Takapan
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