本

『白い人・黄色い人』

ホンとの本

『白い人・黄色い人』
遠藤周作
新潮文庫
\160
1960.3.

 購入したものは1977年発行のもの。その価格を提示している。遠藤周作の初期の作品集を読んで、ふと読みたくなった。たぶんこれは、読んでいないと思ったからだ。やはり初期の作品であり、「白い人」は、芥川賞の受賞作である。
 小説であるから、筋道を明かすことはしないことを、ここでのルールとしている。が、本の紹介で出されている点には、いくらか触れるべきである。
 まず「白い人」、これは白人世界を舞台にしている。遠藤周作は、フランスに基盤をもつので、舞台にフランスを選ぶことが多い。フランス人が主人公である。但し親からドイツ人の血も流れていることで、フランスにドイツが攻め入った第二次大戦のときに、ナチスの配下につく。大学時代に自分のある行為を見られた、その同窓生が神父となっていたが、その拷問に関わることになる。
 12歳のとき、女中のイボンヌが犬を虐待しているのを見た。白い太い股で犬を抑えつけていたのを見て、性に目覚めるようなこととなったエピソードが初めの方にある。これがその後彼の人生の中で、幾度も蘇るのである。人格が壊れていくかのようにも見えるが、恐らくサディズムの芽生えだったのであろう。こうした伏線が、後で利いてくる。
 後に遠藤は、有名な『沈黙』などを書くが、神の沈黙という低音域は、このときからちゃんと流れていたのだというふうにも思える。神学や聖書を背景とした舞台をつくりながらも、ついに神は登場しない。遠藤が信仰していないというわけではない。カトリック信徒である。ただその後、イエスが母性的に、しかも無力で寄り添う姿を呈して、大問題となった。私は文学的に論評することはできないので、全くの素人としていま読み、感想を漏らしているのだが、神が何もできない、というひとつのあり方が、どこかつながっているような気がしてならない。しかし、それは神がいない、ということではないのだ。人間の醜さが、神を見えなくしているのだろうか。あくまでも人間のあり方として、人間の中に潜む罪として、物語は残酷な人間性の現実をありありと描く。
 もうひとつの「黄色い人」は、黄色人種を意味すると思われ、そこに日本人が絡んでくる。最初に掲げられた、神がパンを創造する話は、どこかで聞いたことがあるような気がする。最初によく焼かぬ白いパン、次に焼きすぎた黒いパン、最後にほどよい黄色に焼けたパンができ、神は喜ぶが、遠藤はこの短い道化師的な説話に、黙示録の、生温いから吐き出そうという句を以て結ぶ。
 いくら伝道しても、日本人には西欧人が伝える福音とその神は染みこんでいかないことが、後から嘆かれる。日本の精神風土に、キリスト教というものは馴染まないのだ。遠藤は、それはどうしたわけか、問うていたかもしれない。いくつかの説明を伴いながら、その問題は小説の中においても展開する。
 最初にB29が飛ぶ場面から始まる。これは実は効果的な始まりであった。日本人が、神父に向けてこれまでのことを書き綴るというのが、物語の設定である。デュランという男が死んだことを、手紙でまず報告する。その男の日記が、幾度か姿を表す。デュランが何をしていたかを赤裸々に綴ったものである。
 千葉というこの日本人と、デュランとは、ある意味で共通点があった。それをここでは具体的には言わないが、女性にまつわることであり、道ならぬものであった。しかし、日本人にとっては、彼が一度洗礼を受けていたにも拘わらず、やっていることがどんなに残酷な仕打ちであり、裏切りであったにしても、神がどうにも関わらないのである。デュランのほうは、背教者となっていながらも、罪の意識がやはりあるように思われる。戦争を舞台にして、ずいぶんと酷いことをしたのではあるが。
 罪を覚えないその日本人のやっていること、考えていることには、胸くそ悪い感情さえ、読者は抱きかねない。あるいは、それは自分の姿だと気づくであろうか。いったい日本人の精神の基盤に、聖書が突きつける罪という問題は、深刻な打撃を与えるのであろうか。もしかすると、いまいる日本人のクリスチャンたちも、何も根づくことのない、上っ面だけの「信仰」なのではないだろうか。問い直させる力が、物語にはあると思う。
 文庫には、「解説」として、山本健吉の解説がある。これが、コンパクトで実に鋭い切れ味をもつものであり、作品そのものの扱い方も、遠藤文学における位置づけについても、味わい深い文学批評となっているように思える。もちろん本編を読んだ上で触れるべき「解説」であるが、これはやはり味わいたいものである。読んで唸り声を出すことになるかもしれない。もちろん、文学についてとことん素人の私が感じることなど、陳腐なものであるのかもしれないけれど。




Takapan
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