本

『わすれものをとどけに』

ホンとの本

『わすれものをとどけに』
かめおかあきこ
いのちのことば社フォレストブックス
\1400+
2016.11.

 絵本と呼んでよいだろうか。各見開きの半分からそれ以上を絵が占める。ほとんどが、主人公のプーラを含む形で、遠景の構図となっている。心にずかずか入ってこないように、顔をアップにはしないようだ。読者はそれを離れて見ているようで、それにも拘わらず、いつしかこのプーラの心と一体化していくようになる。心憎い仕掛けだ。
 亀岡亜希子という名前でこれまでも絵本を、あるいはコママンガを提供してきて、おもにクリスチャンが対象ではあるが、とても心を愉しませてくれていた。喫茶ホーリーは「百万人の福音」に連載されていたが、見開き2頁の中の物語に魅了された。特にブタの依子が好きだったが、その依子とは少し違う顔ながら、絵のタッチは少し似ている。特にクリスマスの季節には、クリスマスにまつわる物語をトラクトにしてくれていて、いつも感動させてくれた。
 近頃ひらがな名義にして、より親しみが湧き、小さな読者にも届きやすくなったのではないかと思われる。絵はよく分からないが、水彩紙に水彩でおもに背景を彩り、パステル調の書き込みで、どちらにしても温かな雰囲気を醸し出している、いつもの画調である。それでも、素人目ではあるが、場面により用紙も替えているような気がする。
 今回は淡々と語る文章が長い。本の半分が文章だからである。
 だが厭きさせない。その言葉が時折、読む者の心にちゃんと引っかかってくるのだ。ああ、これは言葉だけでも十分魅力のあるお話なのだと感じる。
 物語であるから、その全貌をご紹介するつもりはない。主人公のプーラは、友だちブーポから手紙を受け取る。「とてもたいせつなもの」を忘れて、旅に出てしまったから、それを届けてほしいというのである。
 プーラはそのたいせつなもの、鍵のかかった木の箱を背負って出発したが、思いのほか旅は長くなる。絵本は、春夏秋冬それぞれの場面で、多くの人(動物たち)と出会うのである。その一人ひとりが、あたたかい。出会いが、確かに出会いとなっていく。が、目指すは友だちブーポ。その姿は一向に見えてこない。心細くならないのだろうか。プーラは心が揺れることすらなく、旅を続ける。決して「走れメロス」ではないのだ。
 冬にクリスマスのことが少し出てくるが、ふだんのようにキリスト教を伝えるような作用はないように見える。しかし、だからこそなおさら、この物語全体が、キリストと共にあることや信頼の思いが底流にずっとあるような気がするのは、そういう目で見ようとしているからだろうか。
 もう歩けない。そんな思いでいっぱいいっぱいになる時があるかもしれない。そんな人に、安心感とエールをもたらすような絵本。スパッと解決するものではないけれども、心の中に何かが残り、膨らんでいく。
 すべてがひらがなとカタカナで書かれている。小さいお子さまも、きっと読める。私は「ことしの あきに なりました」という名のカフェが、やたら気になっている。秋にしか開店しないという。神さまが、季節毎に実りをもたらすのは、「いつも あるわけじゃないものを、だいじに あじわって もらいたいからじゃ ないかしら」と話すおばあさん。今日の出来事を、大切に味わうために、ひとつ勇気をもらえるかしら。




Takapan
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