本

『一年生のとき戦争が始まった』

ホンとの本

『一年生のとき戦争が始まった』
信州智里東国民学校昭和21年度卒同級会 文
熊谷元一 絵・写真
農文協
\1400
2005.3

 題に添えて「われら国民学校奮戦記」とある。
 熊谷先生の呼びかけから、当時子どもたちであった人々が、文集を作った。それが、さらにふりがなまで付け、多くの人に、子どもに、読んでもらえるように配慮して出版された。
 戦争の記録は、しばしば現時点からの振り返りという形態をとる。それは、たんに時間的なものを言うのではなくて、立場的なものを含む。つまり、今の価値観から、当時を評価してしまうということだ。
 それが悪いわけではないのだが、現在の意見の対立がそのまま、歴史の事実を対立化してしまうことがよくある。
 要するに、戦争は何らかのイデオロギーめいたものに利用されがちだということである。それを抜きにした、戦争記録というものが、もっと取り上げられてよいと思う。価値観でなしに、感情までで止まるような、記録である。
 この本は、当時小学生だった人々の記憶を収めている。それは、当時大人の論理から戦争を見ていたのではないということであろう。事実、この本を開くと、当時の子どもたちの遊びや、学校生活、そして食糧事情にしても子どもの視点から、多くの証言が集められている。
 政治的意見もなければ、妙な脚色もない。
 こんな戦争記録を、私は欲しかった。戦争のことを教えてほしい、と若い世代が口にするとすれば、たぶんこんな記録のことなのだ。事実に先立って、別の思想が語られすぎる。実際、そのときどうだったのか。
 やたら戦火の中を逃げ回った記録でもなければ、残虐な殺害現場に居合わせたという記録でもない。淡々とした子どもたちの視点での日常生活が、集められている。
 だからたとえば、「エデック」なる栄養剤の存在とか、モグラが美味であることとか、そんな小さなことが、初耳として私に立ち現れてくる。しかしそれが、戦争の時代における生活なのである。




Takapan
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