『和の暮らし大事典』
新谷尚紀
学習研究社
\2,940
2004.3
日本の伝統ということをすぐに持ち出す論評は、実に胡散臭い。それはたいてい詭弁のためであり、日本の伝統はこれだという決めつけ方は、誰もすることができないはずのことである。そんな立場の者にかぎり、伝統に反する立場の意見を「政治的な意見だ」と非難する。自分がよほど政治的に違いない。
さて、そんなことはどうでもいいのであって、この事典をお薦めするわけだが、これは「生活」そのものをしっかりと見つめて、家庭の云々というシリーズに入れてもよいような仕上がりとなっている。それがよい。思想やイデオロギーとは無関係に、私たちの日常の生活の中に活かされているもの、あるいはかつて活かされていたものに目を落とすことによって、日本の伝統とは何かを感じ取ったり、尊重したりする気持ちが生まれることだろう。
和食に始まり、生活具、季節感と暦、和の家屋についての説明が続く。専門的かどうかと訊かれれば、ここにあるのは実に大衆的でしかないだろうと言わざるをえない。写真がふんだんにあるのもそうだし、文献資料の案内がなく、穏やかな教科書的な記述に終始しているのもそのためだと思う。
だが、生活するにあたっては、それでいい。それが楽しい。いや、これを読みこなし自分の知識に、あるいは生活に取り入れるのは、そう簡単なことではないだろう。だが、自分の生活の中にすでにここにあった事柄の意味や歴史が明らかにされていくのは、人間は通常ひじょうに愉快に感じるものである。それは、自分では十分に知り得ない自分というものの存在が説き明かされていくような部分があるからである。
最初から最後まで「へぇ」と言わされることが並ぶ。とくに前半の料理については、作り方や製造法が写真入りで丁寧に説明されていて、興味は尽きない。
日本人でよかった、という思いが、味噌汁を啜ったときに浮かび上がるという人がいるが、この本もまた、日本を認識するのに恰好の書物であると言えるかもしれない。