本

『教育の忘れもの』

ホンとの本

『教育の忘れもの』
上坂冬子
集英社
\1680
2006.3

 東京のことには疎いもので、「和敬塾」と言われても、何も知らなかったとしか言いようがない。
 東京の学生寮だそうである。半世紀の歴史を誇り、数多くの学生を世に送り出している。
 ところが、著者は、東京に住みながらもこの学生寮のことを知らなかったと告白している。マスコミ取材が殆どこれまでなかったらしいのである。しかし、創設者は実業家として得た財で寮を建て、叙勲や褒章の類を悉く退けている。
 さあ、このことから、著者の取材が始まった。
 村上龍のような有名人物もここにいたというが、この本では、ここで青春を過ごした様々な方面の人物を取材して、その話をまとめてある。連載物を編集したようなものだから、その意味で一つ一つが完結しており、読みやすい。
 この寮での暮らしや背景などの回想はもちろんあるのだが、そこで培われたものは何だったのか、それぞれの人が語っているのが面白い。それほどに魅力があった、あるいは意味があった場所なのである。
 一般の教育と呼ばれる機関が、どこかに忘れてきてしまったようなものを、生活を通して教えていく、共に学んでいく、そんな居場所が提供されてきたのだ。
 たんに寮の思い出話ばかりとは限らない。その時代の学生の様子がよく見えてくると同時に、これからの若い世代にどんな声をかけていけばいいのか、何かヒントになるような気がしたのは、私だけだろうか。




Takapan
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