本

『世界の美しい魚』

ホンとの本

『世界の美しい魚』
松浦啓一
パイインターナショナル
\1800+
2013.6.

 同類のユニークな写真集を何冊か見たことがある。楽しい本を提供してくれる出版社だ。どのようにして集め、製作に至ったのか、その辺りにも興味がある。
 が、ともかくこの本は分かりやすい。ただ見ればよいのだ。延々と写真が続く。写真だけ見ればいい。だが、ぱらぱらとめくるだけでは終わらない。一枚一枚の写真が、語りかけてくる。その都度立ち止まり、時に笑う。いや、しばしば笑う。
 ここにあるのは、ただの魚の写真だ。日本では見られない種類のものが殆どで、色彩が豊かである。その色もさることながら、表情がいい。
 魚の顔を、真正面から見ると実に面白いと、これまでも感じていた。しかし、丸顔の魚もずいぶんといるものだとこの本で知った。すると、どこかで見たような人の顔に見えてくる。いや、たぶんきっと、いる。
 ゆるキャラに似ていると思ったのもいた。我が息子の顔だな、と思わせるものもあった。
 なんということのない本のようでありながら、何度も開いてみたくなる。なかなか飽きさせない。見るたびに発見もある。
 繰り返すが、魚の写真ばかりである。だが、味わいがある。そこに何かを見出す。
 それは、もしかすると、先に触れたが、「語りかけ」ではないかと思った。まず、魚のほうから私に語りかけてくる。何か言いたげだと思うのだ。そして私はというと、今度はその語りかけに対していつの間にか何かを返している。話しかけている。これは、孤独故の性癖というものではない。ひとつの応答である。
 そんな写真集は、とても魅力がある。動物にはよくあるかもしれないが、魚のように表情の変化に乏しいものにも、あったのだ。日ごろあまり見かけないような相手であるが、だからまたなおさら、そんなとこにそんなふうにいたのか、と声を交わしてみたくなる。
 こんなことはしてはならないだろうが、ページを切り取って、額に入れておきたい衝動に駆られた。それほどに、目に見える風景の中に常置していたいと思わせる魅力に溢れていた。




Takapan
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