本

『後路みね ゆうひの丘のなかま・2』

ホンとの本

『後路みね ゆうひの丘のなかま・2』
いわむらかずお
理論社
\1260
2003.1

 14ひきのシリーズで有名になった作家だが、「かんがえるカエルくん」シリーズが実に印象的である。この哲学的な、のほほんとした雰囲気は、かけがえのない輝きをもつ絵本となっている。
 自然を愛する心が、そこかしこから伝わってくるものだが、この「ゆうひの丘のなかま」シリーズは、それを絵でなくストーリーとしてとことん追求したものであるように感じる。そのテーマは、「絵本・自然・子ども」だそうである。
 このシリーズ、舞台はすべて同じ。キャラクターも基本的にどれも同一。シリーズ1の「根津あかね」はすでにこのコーナーでも取り上げているが、このネズミもまた登場する。
 農場主の里山さんは、どの動物も慕っている。しかし、里山さんがある日、いつもの時刻に帰ってこない。そのため、腹を空かした牛が大きな声で鳴く。事件といえば、たったそれだけのことだ。
 そこへ心配して集まったこの丘の動物たち。カラスの三兄弟に頼み、里山さんを探すことにする。その報告を待つ間、動物たちは互いに心配しつつ、なんでだろうなどと話し合いをする――そこに、私たち人間もまた当然考えなければならないテーマを、きちんと提示するのが、この童話のキーポイントであるように、私は思っている。
 人間に飼われる動物は、人間がいなくなると餌すらもらえず、ここではそのことを悲しむしかない牛がいる。この事件を通じて、ふだん餌に不自由していない牛の立場が明らかになる。そして、その餌が与えられる代償として、小屋から出られない不自由を強いられているというのである。
 それに対して野生の動物たちは、餌が見つからない不自由や、自ら餌とされてしまうかもしれない不自由さをもちつつも、どこへでも動いて行ける自由をもっている。
 どちらがよいなどという、単純な問題ではない。ここには、深い「自由論」が潜んでいる。
 いや、そんなカタいことなしに、読んでみましょう。楽しいので。




Takapan
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