本

『耳が聞こえないうささ ウワサのユニバーサルスポットをゆく』

ホンとの本

『耳が聞こえないうささ ウワサのユニバーサルスポットをゆく』
うささ
産業編集センター
\1400+
2025.1.

 全編マンガ、と言ってよいだろうと思う。コマ割りされた中に、次々とスポットが紹介されてゆく。しかし内容としては、その説明ばかりである。ストーリーがあるわけではない。
 うささという名で活躍する、漫画家あるいはイラストレーターが著者である。補聴器でいくらか音が拾えるのではないかと思うが、「耳がきこえない」という言い方でよいだろうと思う。すでに、子育てに関するコミックエッセイが出版されており、非常に良い評判を得ているようだ。
 編集者からの提案を受け容れて挑戦する、という本書のきっかけを描くところから始まる、大胆な設定である。絵がほのぼのとしており、聴覚障害者について、読者はうんと親しめるような下地ができている。呼んでいくうちに、「きこえない」ということについて、すっかり忘れてしまうほどではないだろうか。
 第一章は、「ユニバーサルなお店巡り」。スタバが一部非常に手話の店として強化していることは、よく報道されているが、そこに実際に行き、レポートする。居酒屋やカフェ、パン工房など、いろいろな種類の店で、聴覚障害者に配慮を以て営業している店を紹介する。その店を実際に訪ねて行けるように、案内ももちろん調っている。
 第二章は、「ユニバーサルな取組み」。映画館やサッカーなど、様々なスペースが紹介される。よしもと手話ブ!も時々報道されるが、実際にそこに足を運んで、舞台の様子をマンガにしてくれており、臨場感が伝わる。また、運営方針やその発端なども、よく取材してあって、読者は親しみがもてる。
 そこには、デフリンピックの意味やその内容も含まれており、2025年11月には、大いに注目されてほしいものだと思う。
 きこえない人が、どういうところで困り、それを助けるにはどういうことが必要か、細々としたことが、コミックで描かれると、とても心によく残る。文章での叙述も悪くないが、実際の視覚的な様子を、マンガという形ででもこのように見せてくれると、留まる印象が異なる。そして何より、誰もが気軽に手に取りやすい。
 ろう者の生活や社会的な問題について、いろいろと本も出回るようになった。その中で、コミックエッセイとでも言うのか、こうした分野は、分かりやすく、親しみももちやすいことは間違いない。
 こうしたスポットは、東京が多い点は仕方がない。だが、一部は東京に限らず、関西などにも及び、取材が大変だっただろうと思われる。もっと地方にも、配慮豊かな施設や店舗があるだろうと思われる。この一著者が取材に行ける箇所は限られている。できれば、日本各地でも同様なスポットがあるということを、広くまた知らせてくれる人が、ここから起こされることを願う。
 また、細かくその動機やサービス内容も明らかにされていることから、本書を基に、自分も何かできる、と思い立って始めるような人が現れるとよいと思う。こういうことならできる、と勇気をもてるようにさせてくれる働きがあったなら、本書の限られた取材網も、無限の可能性を秘めていると言わざるをえない。そうなってほしいと思う。
 本書が何年か後に開かれて、まだあのときはこの程度しかできていなかったんだな、と懐かしく思うようにでもなれば、本書の役割が果たせるのではないだろうか。そんな逆説めいた感想を、私は懐くのだった。




Takapan
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