本

『うさぎの品種大図鑑』

ホンとの本

『うさぎの品種大図鑑』
町田修著・井川俊彦写真
誠文堂新光社
\2940
2010.10.

 大図鑑と銘打っているものが果たして「大」なのか、などという意地悪なツッコミを入れたくなるような世間の出版であるが、これはなかなかのものである。サイズが大きいという意味ではない。内容が充実しているというのは確かであるが、うさぎへの愛に満ちていることが、ひしひしと伝わってくるのである。
 そこには「品種」とある。つまり、野生のウサギの生態を扱うのではない。ペットである。うさぎの品種については、アメリカの基準が世界的に認められているらしく、そのARBAという組織の公認に基づく編集となっている。
 そもそもうさぎとはどんな動物か。その生態や人間との関わりの歴史、そして図鑑を見るために必要になる用語などの基礎概念の紹介がしばらく続く。ここだけで十分読み応えがある。それを見ると、一通りうさぎというものがどういうものであるか、分かる気がしてくる。まるで、うさぎ入門である。
 そこからそれぞれの品種についての写真と解説が加わる。
 その表現は、素人の私が伝えることはできないほどのすばらしさである。これからもしうさぎを飼おうとする人がいたら、もうこれ以上の図鑑はないものと言って差し支えないであろう。などと、うさぎの世界を知らない者が言ってよいのかどうかさえ分からないが、それほどに、びんびん伝わってくるものがある。うさぎについて何も知らない者が開いただけで、うさぎのことがだいぶ分かってくるような気がするのである。何につけても、これほどの親近感を味わわせてくれる図鑑には、めったにお目にかかれない。
 巻末には、うさぎの血統についての、専門的な説明が加わる。素人は巻頭で十分であり、専門家あるいは愛好家はこの巻末もたまらないであろう。
 この本は、そうした趣旨であるから、うさぎの飼い方を解説したものではない。それはまた別のものがあるだろうし、誠文堂新光社からうさぎに関する本が幾種類も出されていることが、カバーの内側に紹介されている。
 なお、愛らしい写真も実に鑑賞の価値がある。どのうさぎも、背景を真っ白にして置かれている。生態を共に示そうとする昆虫などと違い、うさぎそのものを正しく見せるためには当然のことと言えるかもしれないが、その配慮と共に、うさぎの姿を示すためのライティングやアングルなど、写真撮影の技術とその困難さ、画像処理などを想像すると、頭が下がる。実に手のかかった写真であると推測する。
 うさぎを飼う人がたくさんいるという訳もよく分かったような気がした。鳴かないことや手頃な温もりとおとなしさなどをイメージされて、うさぎを飼い始める人も多いかと思うが、そのうさぎを飼えなくなって捨てるという哀しい社会問題も起こっている。その多くは野生の動物に食べられてしまうようであるが、他方で生き延びたものも、人間に害を及ぼすような存在になる場合があるという。ちょうどこの本を開いて見ていたその日に、そのようなニュースが伝わってきた。なにもうさぎに限らないが、動物を飼うというのは、それなりの責任が伴う。いのちを扱うということは、きれいごとでは済まない問題がつきまとうものである。うさぎをよく知り、きちんとした手続きとルールの下に共に暮らしていってもらいたいものだ。
 あるいは、人間に対しても、それが言えるのかもしれないけれども。




Takapan
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