本

『大学生になったら洋書を読もう』

ホンとの本

『大学生になったら洋書を読もう』
水野邦太郎監修・アルク企画開発部編
アルク
\1470
2010.4.

 そもそも電車の車内で読書をしている学生の姿を、とんと見なくなったように思う。朝晩の通勤時刻あたりには、いるのだろうか。
 まして、洋書を開いているなどという学生を見かけるのは、宝くじに当たるほどに難しいような気がする。いや、きっといるところにはいるんだ、ただ私がそういう範囲に活動していないだけなのだ、と考えるようにすべきだろうか。
 しかし、こういうちょっとした気取りのようなものが、実のところ知的作業に関係するものだ。背伸びをするようなところが、あって然るべきではないか、と私などは思う。大学の研究室には洋書店員が出入りしていて、いろいろ買いあさっていた私は、やっぱりそのように思ってしまう。
 この本は、アルク出版の支配下で成立している。ということは、英語教育を推進するという立場で書かれていなければならない。実のところ洋書の宣伝のようになっており、この本を読み実行してみたからアルク社の教材を買おうという動きには直接結びつかないような気がするのだが、そういうコマーシャルのためにこの本が生みだされたというわけでもないだろう。とにかく英語に対する興味や関心が拡がっていかなければならない。また、せっかく学ぶのならば、英語の海の中に飛び込んで英語文化の理解という冒険に出て行ってほしいものだ。
 その点、この本は、最初のほうで英語を学ぶということ、そして洋書を読むということの動機付けや意義について、たっぷり時間を使って聞かせてくれる。とくに初めのほうは、タレントの体験談という、今どきのやり方としては実に王道を歩いてきてくれる。選ばれたのは、知花くららだ。
 続いて大学教授が幾人か、英語についての体験を踏まえた学習持論を展開する。インタビューしたもののようで、読んでも聞きやすい感じがする。私は個人的に、この監修者が福岡の大学で教えているという点に親しみを覚えた。事ある毎に学生の体験談もコラムのように紹介されているのだが、福岡の大学生がかなり多い。別に福岡のことが持ち上げられているわけではないのだが、これは九州の大学でぜひ売れる要素をもっている本だぞ、と出版社に耳打ちしたい。
 その後、洋書を実際に読むとして、どこから手をつけるか、またどのように読むか、という誘いに入る。実に丁寧な構成である。読み方から買い方からもうあらゆる点で雑誌のごとくに、手取り足取り洋書を現実に手に取り読み始めるまでを助けてくれる。ありがたい本だ。ちょっと大学生が買うにはこの大きさと値段とがどうかなと思われるのだが、実際にこの本を役立てる段階に入ると、それはリーズナブルであることが分かる。
 時折、受験英語では見落としているような、それでも英語としては基礎の基礎の部分の解説も入る。lookとseeとwatchの違いなど、常識中の常識であるはずだが、なりたての大学生の中には、こうした区別を説明できない人も少なくないかもしれない。つまりこの本をただ読むだけでも、ずいぶんと英語の勉強になるわけだ。
 最後に、お勧め100冊なるリストがある。英語的なレベルも記してある点が、ただの紹介とは違うところだ。マンガもどんどん勧めているくらいだから、ここに挙げられた本のどれ一つとして食指が動かなかった、などということはまずないだろう。
 ということで、大学生が実際にこの本を手にとって洋書に向かい、英語について楽しい気持ちで探求心を深めていくということが、実際に起こればいいなあと願う。やや文学的なものの紹介が多いが、はじめのほうで理系の教授が吠えているように、文学作品は実はかなり読みづらい。理系の英文は、実はたいへん読みやすいのである。こういう点から、私は独断的に、もっと哲学書を推薦してほしかった、と思う。実は読みやすいというものも、けっこうあるのだから。
 だがそのあたり、開発部スタッフなどのことを考えると、偏りは仕方がないところなのだろう。さらに幅広い推薦書コーナーが望ましかったことが少しだけ惜しい。
 ただ、レビューを書くというのは、私もお勧めだ。私も現にこのようにして、千冊以上の本について、気ままな感想文を続けてきたのであるから。




Takapan
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