本

『大学破壊』

ホンとの本

『大学破壊』
全国大学高専教職員組合編
旬報社
\1680
2009.4

 サブタイトルが「国立大学に未来はあるか」というわけで、執筆者は国立大学の教職員たちが中心である。1989年に結成された組合なのだそうだ。
 専門職でありつつ、一般の人々に訴えるに相応しい述べ方をするというのが、少々勝手が違うという苦労もあったようだが、その点は良かったのではないかと感じる。言わんとしていること、そして窮状についても、適切に説かれていたと言ってよいと思う。
 ただ、全編あまりに暗いことばかりだったのは、読んでいて辛かった。たしかに、妙な明るさを取り入れて、実はそれほど深刻ではないのだ、などという態度を見せることは慎むべきである。だが、1600円也を払って読んでみて、少しの救いもユーモアもないままに読み終えるというのは、かなり耐え難い思いがするのも事実である。
 オーバードクター問題は、私の頃にも当然あった。だがまた、近年の法人化と運営費交付金の削減などの現実が、さらに大学そのもののあり方を変えている。国益に直結する分野ならまだしも、基礎研究は切り捨てるという経済の原則が貫かれる中で、かつての研究者が幾人もノーベル賞に花咲くも、それらが実は海外研究に支えられているなど、やはり事実日本においては、目先の利益を大学が求めていくことしかできない空気であるという。
 その具体的な有様は、涙をそそる。研究職員が草刈をしているとか、歳を重ねても見通しの利かない世界でもがくばかりだとか、もう読んでいて、辛い。これでは研究者になりたいなどと子どもが口にすることはなくなっていく、との懸念も投げかけられているが、確かにその通りであろう。
 こうした悲惨な状況を、ルポライターやジャーナリストでなく、当事者自身、大学教授たちが告発している、というのが、この本のやはり売りなのだろうと思う。生の声、世に知られていない姿が、白日の下にさらされる。
 これは私の感覚だが、少子化問題対策として、幼児への経済的支援を政策は盛んに持ち出すけれども、この本が主張しているような、高等教育への支援はとんと見られない。世界レベルで比較しても、高等教育の受けにくさは突出しているという。要するに、幼児を助けるとすれば政策に賛同してもらい少子化が反転する、といった効果がある、とおめでたい見通しによって、国民をバカにしているのである。その先の高等教育の悲惨な状況がある中で、誰が子どもをぜひ増やそうと考えるであろうか。私たちは、朝三暮四のサルではないのだ。
 というように、これだけ暗い本であるから、読み終わると読者たる私もまた、暗い気分に陥ってしまう。さすが大学教授である。巻末には、現実的な対策が挙げられている。それは私立ではなく、あくまでも国立大学の再生のための提案である。教育的な効果や配慮というものでなく、あくまでも経済的領域において、高等教育を支援するための方策が求められているのである。公費を大学にもたらすという点の重要性を述べることについて、この本は少しもぶれない。そういう角度から見た大学の現状というものを、この本で垣間見る思いがする。生の証言であるから、その点は信用がおける。
 マスコミが興味本位で、潰れる大学はどこだみたいな特集をすることがあるが、それもまた、大学の味方をしてくれるものではない。このままでは、目先の国益なら見えるが、長期的視野がもてないという。つまり、やがて日本は教育的にも滅びるだろうというほどの見通しなのだ。だから、やっぱり読んでいて、暗い気分になってゆくのだ。




Takapan
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