本

『宇宙 最新画像で見るそのすべて』

ホンとの本

『宇宙 最新画像で見るそのすべて』
ニコラス・チータム
梶山あゆみ訳
河出書房新社
\3990
2009.7

 宇宙のすべてという題を冠した本である。スケールが大きい。
 百科辞典のようないでたちである。その割には安価であると言えるかもしれない。
 この場合、「宇宙」とは「UNIVERSE」である。コスモスではない。何か理性的な秩序や関係を読みとろうとするものではなく、広がりをもつこの美しい世界そのものを見ようということだろうか。
 早い話が写真集である。それをどのように撮影したか、などメカニックなこと、テクニックなことを話題にするものではない。
 ただ、この空に向けたカメラが写した画像を見るがいい。ただ見ればいい。
 言葉はいらない。
 写真集は、地球に近いところから始まる。まずは地球月であるが、これはスタートラインに過ぎない。月、小惑星の類から惑星になり、太陽になり、太陽系を脱出する。すでに光年の世界である。
 人類が有する撮影技術の粋を集めて、ここに天体の写真が集まる。
 それぞれの写真には、数行だけの解説がつく。この長さがベストである。詳しい記述は、天体のロマンの鑑賞者には不要である。しかし、ちょっと驚くために、わずかな説明があるとよい。へぇぇ、と思わせる、テレビ番組における事項の紹介の程度があればいい。
 頁が進む。幾千光年、幾万光年と距離が隔たっていく。この撮影した光は、何万年間前に放たれた光であって、現在その発信元がどうなっているかは、私たちは今は知る由もない。それを思うだけで、どこか切なくなる。なんと自分の命は短いのだろう、と嘆きたくもなる。私はそれを幼時に体験した。今なお変わらないと言える。
 だんだん、私は不思議な気持ちになってくる。この写真は、地球が誇りや滓であるくらいに小さく見えるであろうような、巨大な対象を撮影しているはずなのであるが、何か、ミクロのものを覗き見しているような気がしてくるのである。
 億を数えるようになると、手塚治虫の「火の鳥」の漫画に描いてあった命の世界がそこにあると思われて仕方がなくなるようでもある。これら巨大な銀河が、私の中の細胞の一つである、と言われても、なんだかそうかもしれないと思ってしまうようだ、ということである。そして私もまた、その銀河の中のゴミとも言えぬほど小さな一部である。
 禅問答のように常識では理解しづらい言葉になってきた。
 だから、やっぱり言葉はいらない。
 この写真集を、ただただ眺めていればいい。自分を正義と思い込むような宗教に熱心になるよりは、よほど人生に役に立つはずだ。
 この写真集を、すべての人が一日に一度開かなければならない法律ができたら、世界平和が達成される日は近いのではないかと思われるほどである。まず自分から、それを始めなければならないだろうが。




Takapan
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