本

『プロ野球・審判だからわかること』

ホンとの本

『プロ野球・審判だからわかること』
田中俊幸
草思社
\1572
2004.9

 審判を茶化すような、珍プレー放送に対して、クレームが付けられたことがあった。番組だって審判をからかっているわけではないのに、堅いことを言わないでもいいのではないか、と思った人も多いだろう。この本には、そのテレビ番組のことは一言たりとも触れられていない。だが、審判の仕事と役割について、それは全く理解していない愚かな「ノリ」だということが、よく分かった。
 この本は、元セ・リーグ審判部長の手により『日刊ゲンダイ』に掲載されているものを中心に編集されたものである。
 考えてみれば、元プロ野球選手や監督が、プロ野球の裏側はこうだなどと書く本はこれまでも沢山あったし、よく売れていた。ビジネス論を述べても、説得力のあるものと受け止められていた。
 だが、審判という、ゲームにおける「絶対者」の側からの視点というものは、そう世間に公表されることはなかった。……そう、審判は「絶対者」なのだ。門外漢は、ともすれば「誤審」云々を持ち出して面白がる。それはまるで、神が存在するならなぜ不幸な人が世の中にいるのだ、おかしい、だから神は存在しない、と勝手な理論を述べ立てる人間と同じような無責任さが伴うものだということが、この本によって思わされた。
 興味をもってもらえるように、往年の名選手や監督のエピソードが、ふんだんに盛り込まれている。その一つ一つが、たとえば20年くらい前の野球選手を知っている者には、たまらなく面白い。面白すぎる。
 しかしまた、そのエピソードを連ねる中に、確固たる信念やルール観というものがあって、規則をどう適用するかについての、全身全霊を注いでの営みがあるのだということが、そのうちにひしひしと伝わってくる。
 自分のミス・ジャッジについてもありのままに語ってくれるから、誠実さも感じる。ミスがあるから、「神」ではないのだが、しかし審判判断は、ゲームの上では「絶対」なのである。それが少なくとも「野球規則」には保証されている。
 だが、現実に日本の野球では、選手や監督とのバランスの中で、ミスと認められたら処罰を受けるシステムになっていることは問題だという。アメリカのように別組織であれば審判の権威は高く保たれるというメリットも紹介される。それでいて、技術的な面においては、はっきりと、メジャーの審判よりも日本の審判の方が上である、とも断言する。著者自らがアメリカで経験したことを元にしているので、体感した事実であると受け止めることができる。
 審判のご苦労が分かった。これからは、野球の見方が変わりそうである。外野審判のなくなった今、その働きは様々な苦労を背負い込むことになっている。私たちは、もっと審判を尊敬しなければならない。野球ファンには、ぜひお読み戴きたい。




Takapan
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