本

『沖縄のウミウシ』

ホンとの本

『沖縄のウミウシ』
小野篤司
ラトルズ
\2980
2004.7

 ウミウシが、私は好きだ。なぜかと訊かれても分からない。小さいころから、イラストで仕上がった横長の海の図鑑を開いては、ウミウシを見て、こいつは可愛い、と思い続けてきた。実物は、ほとんど見たことがない。海辺で、これかなと思ったことはあるが、たいていは水族館止まりだ。
 もちろん、専門的なウミウシ図鑑は多々あるのだろう。万の桁が軽くつくのではないかと思う。素人が楽しむというわけにはゆかないし、どうせ分かりもしない。
 そこへいくと、この本は手ごろである。値段もだが、解説も比較的分かりやすい。
 図鑑などの書評をすることができるような知識も技量もない私であるが、どうしてこの本を取り上げることになったかというと、この本に、何かを感じたからである。何だろう。しばらく考えていた。どうやら、それは「愛情」であるらしいことが自覚されてきた。
 撮影者が、1cm前後のウミウシを、実に愛情こめて撮影している。少なくとも私には、そのように感じられた。だから推薦したくて、取り上げたというわけである。
 え、ウミウシって何かって? そんな人もいらっしゃることと思う。アメフラシにどこか近い、と言っても、そのアメフラシとはなんぢゃいな、とくることであろう。幾種類かの「目」があり、種類は多岐に渡るのだが、貝の中身だけが外に出て活動しているふうなもの、と言えば素人には十分通用するだろう。そして、美しいのだ。色彩豊かで、なかなか愛嬌がある。だからこそ、実はファンも多い。
 海中には、重力が陸ほどには利かないから、生物は形態的に制限を受けないという。つまり、陸上なら、体を支えるためにこうこうこういう手足でなければならないなどの条件が伴うが、海中ならばそれがない。自由な形で生を営むことができるのである。それゆえ、陸上の常識に左右されぬ、美しいフォルムの生物が現れる。端的に言うと、海には「ヘンなヤツ」がうようよいる、ということだ。
 だから私は海の生き物が好きだ。この図鑑、あるいは写真集は、そんな私の感情に近いものを共有する、立派な専門家によって制作されている。




Takapan
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