本

『生まれてきてよかった』

ホンとの本

『生まれてきてよかった』
玉木幸則
解放出版社
\1260
2012.11.

 表紙の笑顔を見るか、サブタイトルの「てんでバリバラ半生記」というのを見ると、あの人か、と気づく人もいるだろう。福祉に関心がある方は、NHKテレビで見て知っていることだろうが、そうでなければ、全く知らないという人も多いだろう。
 脳性まひで言語障害をもつ男性。というと、何もその人のことを知らなくても「気の毒に」などという色眼鏡を、人はもちがちであるが、近年は必ずしもそうではなくなっている。一人の人として、そういう個性をもっているという見方も広まってきている。同時にまた、ただ個性が違うだけなら、同じように自由に快適に生活できる社会であるべきだという理解も深まってきているはずだ。そして、そうした考え方を浸透させるために、障害者の立場から活動をしているのが、この著者なのである。
 もちろんそれは、口で言うだけのことより難しい。NHKの福祉番組に関わっているばかりでなく、一般的な目から見れば冒険的に思えるような発言や企画を志し、提案を続けるためには、様々な困難に立ち向かわなければならない。
 それにしても、自分の生い立ちをこのように記してくれ、また福祉関係と言ってよいだろうが、出会った問題点や誤解などを、はっきりと告げてくれたことについては、感謝しきりである。私の立場から福祉などと偉そうなことを口にしてみても、著者が見ている世界や気づきは、私の知ることのできないものである。
 少しばかり、心に残ったところを引用させて戴く。
 ――最近、いじめにあって学校へ行くことができない子どもたちが増えていますね。一概には言えないとは思いますが、「やめとけ」という味方が少なくなっているのかもしれませんね。みんなで、助け合っていければいいのになあ。
 ――共に生きるというのは、小さいときから障害のあるなしにかかわらず、同じ環境で育っていくことですよ。障害のある者だけを異なる生活環境において、「社会はこんなにたいへんやからがんばれよ」と言って障害者だけを変えようと負担を強いるやり方自体おかしいと思います。
 ――(テレビ出演について)怖さというのは今もあります。自分が話したことで気を悪くする視聴者がいるかもしれません。そのときに、ぼくはこう思っているということをきちんともっていないといけません。たとえば、視聴者から叱られたとしても、「それはこういうつもりでゆうてるんですよ」と言えるように、きちんと考えをもっていないとテレビには出られないわけです。
 こんな、宝石のような言葉があちこちにある。もちろん、どうかな、と思われるようなくだりに出会ったりすることもあるのだが、私の立場からは言えないようなこともあるし、私自身気づかなかったようなこともある。それは、障害があるから、ないから、というものでもない。ライフスタイルが少し違うだけの一人の人間が誠実に考えていることについての問題である。そして、社会的に不利な立場にいるということがどういうことかに敏感で、いわば弱い立場にある人の視点に立てる人の声である。引用はしていないが、24時間テレビについての、当然そうだろうと思われるような提言も中にはある。大きな夏のイベントとなったものについて、思い切ったことを指摘する人がもはや少ないかもしれない中で、障害者の立場からの意見というものについて、やはり考え直さないといけない時期に入っていることは間違いないだろう。つまり、お涙頂戴とか、健気に頑張っている姿が素晴らしいとか、それが障害者なのではないのである。それを強調するのだったら、世のテレビ番組は、真面目な人のドキュメンタリーや、善人を称えるドラマばかりになってしまうだろう。おふざけの番組やお笑い番組、悪を描く番組があるのと同様に、障害者であろうが、同様にそれらがあって然るべきだというのは、全くその通りなのである。
 第二の性ではないが、障害者は障害者として生まれたり、事故や病気でそうなったりするのではなく、障害者につくられるのだ、というテーゼが、一般常識になっていく時が、早くくるとよいと願う。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります