『「うまい!」と言わせる 文章の裏ワザ』
石黒圭
河出書房新社
\1400+
2014.5.
タイトルの「裏ワザ」という言葉は、いつから広まったのだろう。コンピュータゲームで、通常設定しないコマンドがある、というふうな辺りで、そうしたゲームが出回った頃から、使われ始めたのではないか、とおも思う。その後、生活の中で役立つ、一般に知らせていない方法を「裏ワザ」としてテレビが流行らせたような気もする。
文章の「裏ワザ」というようなネーミングそのものを、私はあまりよい感覚では捉えない。だが、著者には信頼を置いている。従って、内容は良い。
ひたすら裏ワザが並べられているようなものではないからである。
先ずは「定石」が示される。学校で作文に使うのであるなら、これで十分である。むしろ、これをきちんと理解しておかなければならない。できれば学生たちには、こちらだけを読み進んでいってもらいたい。
型式は、33のルールについて、まず「オモテ」の文章ルールが掲げられ、その内容を事例と共に説明する。それから「ウラ」の項目を示し、それが如何なる効果を持っているかを、これも事例と共に見せてゆく。ここの説得力というのが、本書のウリである。
よりよい点は、まずは重要な点がゴシック体で、本文中でも目立つようにしてある琴と、それから何よりも、これら「オモテ」と「ウラ」との説明の最後に、「ポイント」がやはりゴシック体で、しかも箇条書きで並べられている。要点だけを確認したいときには、これだけで十分である。
確か別のある本では、そのポイントにあたることだけが、巻末の方に全部並べられていた。そこだけ見れば、きちんと読んでさえいれば、注意点を知ることができるのである。本書はそこまではいっていないが、少なくとも「オモテ」だけなら、目次を見ることでそれが分かる。そして「ウラ」は、一般にダメと言われているその「オモテ」の否定形が、使われるのには理由があるとか、一定の効果をもたらすことがあるとかいうように、ダメではない場合がある、という内容なのであるから、見当はつく仕組みになっていると言えるだろう。
それら一つひとつをここでご紹介することは差し控える。
ところどころクイズがあり、どれが正しいかとか、間違いを見つけよとか、けっこう楽しませてくれる。だから本書は、辞書のように使いたい項目を拾い読みするのではなくて、ぜひ通しでまずは読んでみる必要があると思う。読み物として最後まで辿るだけでも、言葉に対するセンスが磨かれるだろうと思う。
ところでそのときの注意は、先ほども少し触れたけれども、ふだんあまり言葉について強い関心をもって考えていない人の場合は、まずは「オモテ」に徹することだ。そこだけでも、知らないことや、気づかなかったことがあるかもしれない。そのときには、まずはそこから言葉に対して磨きをかけることが必要である。「ウラ」というのはいわば応用なのであって、「オモテ」が基礎である。基礎あっての応用なのである。基礎を無視して、いきなり応用を使って分かったふりをする、というのは禁物である。とにかくまずは「基本」を身に着けることが、私たちには大切なのである。そういう利用法を、私はお薦めしたい。
とはいえ、本書のウリはどうしても「ウラ」にあると言わざるを得ない。言葉には、杓子定規では務まらない役割がある、ということを私たちは知っている。日常生活の中での言語使用と、公的な言語使用とは、やはり違うのである。ビジネスの現場を含む、公的な文章としては、どうしても「オモテ」を弁えなければならない。しかし、日常言語の場面では、「ウラ」がむしろ主軸になると言えるかもしれない。
それは、ウィトゲンシュタインの前期と後期の考え方に並行するような構図だと見てよいかもしれない。
内容には触れたくない、としたが、一つだけ、やはり強調しておくべき項目があった。それは「比喩」のことである。「比喩表現には、誇張、論理の飛躍、論点のすり替えなどか混入しやすいのは事実」だ、というのである。そしてそれは、「政治の世界ではよく使われ」るのだ、と指摘している。「世論操作」に、比喩は利用されやすいレトリックなのである。これは、万人が気づいていたい事柄ではないだろうか。また、気づいた者が、注意を喚起し、指摘し、理解を広めようとしなければならないのではないだろうか。私もまた、その役目を負う一人でありたいと願っている。

た
か
ぱ
ん
ワ
イ
ド