本

『小学生の学力は「教科書」の中心学習でグングン伸びる!』

ホンとの本

『小学生の学力は「教科書」の中心学習でグングン伸びる!』
親野智可等
すばる舎
\1470
2010.3.

 小学校教師生活23年という著者は、各方面に教育的アドバイスをして有名である。非常に多くの読者をもつメールマガジンを発行しているのであるが、かくいう私もそのメルマガはかなり以前から届けてもらっている。学力を身につけるための様々な知恵は、なるほど経験の上からも説得力があり、確かにそうだと思えることも少なくない。私はそのメルマガを読む以前から私なりに中学受験などへ応援する知恵を公開しているが、その後、この著者の影響を何らかの形で受けていないとも限らない。
 ほかにもいろいろな方面から、学力アップの知恵を紹介している著者であるが、この本では、学校の教科書を活用しようという提案である。
 たしかに、自信のない生徒ほど、プリントないですか、ともらいに来る。中学生も同じである。私は、新しいプリントを開発して解かせるのは、作成する労力のわりには学力伸長には貢献しないものであることを経験上知っている。だから私は基本的に、手元にある同じ問題を三回解けと命じている。プリント作成を怠けているのも嘘ではないが、実際そのほうが成績を上げるためには間違いなくいい。私自身も中学生のころ、そうだった。徹底的に一つの問題集を征服したのだ。
 だから、この著書が掲げる、教科書中心の学習、あるいはまた教科書を使い尽くす学習ということについて、とくに受験でなく一般の学習においては、間違いなく効果があることだと考えている。それだけ教科書というのは、練られて作られているからである。
 いわば、そうした当たり前のことを紹介した本である。だが、何かと参考書や問題集に、いや今では専ら塾というサービス業に踊らされることが普通になった教育熱心な保護者には、その言葉が新鮮に響くのではないだろうか。
 教科書を中心にというためには、基本的に子どもが学習に対して意欲をもっているという前提を必要とする。この点で悩んでいる親もいるかと思うから、この本は、やる気をもたせるために褒めることや子どもの努力を正当に評価することを勧めてやまない。いや、教諭としての経験からくるものだろうとは思うが、親が背後で子どもにどういう態度で接しており、それがどのように子どものやる気を押し込めたり潰したりしているかというからくりも、熟知している。だからこの本は、教科書の具体的な利用法を挙げると共に、そのような親として子どもにどう接していくかという知恵も多く載せられている。あるいは、よく本を見ればそういうことばかりだ、というふうに取れるかもしれない。
 そう、メルマガでもそうなのだ。この著者の主眼あるいは特長は、親が子どもにどう接するか、というところにある。だから、かの奇妙なペンネームをつけているのだ。ここを誤解しないで受け止めているならば、こうしたハウツー本も役立つかもしれない。教育について素人とも言える親には、よい刺激が与えられことだろう。
 本の中は、実に読みやすい。段落毎に一行空いている。だから頁や厚みのわりには、実質的な中身は少ない。これは、メルマガの原稿をそのまま縦書きにしたらそうなるのであって、恐らくそうした作り方をしている、あるいはそのほうが読みやすいという配慮によりなされているということだろう。
 学習が自分にとり真の知恵となることと、とにかくテストで点を取ってよい動機付けとすることと、どちらも間違っていないと著者は言う。その通りだ。つまりはバランスが必要なのだ。綺麗事だけでも親は肯くかもしれないが子どもは楽しくない。また点さえ取ればどうでもいいというのも学習する意味がない。そのバランスがどう取られているか、目論むか、そこに親としてのやりがいもある。要は、子どもがどのように意欲をもつか、という点が最も重要なのである。
 具体的な教科書の利用法もいろいろ載っている。私にとっても賛否どちらもあるが、概ね子どもが意欲をもって取り組めるプログラムであろうと思う。
 こうした学習の知恵なる本は、世のビジネスマンのための自己啓発本と同じくらい、いろいろあって、そしてどれも同じようなことであり、実のところ大した内容をもっていない、成功者の自慢話で終わりそうな傾向のあるタイプである。だが、親としてもこうした本のひとつひとつに左右されないくらいに、自分の子どもを冷静に見つめ評価できるようになればいいものだと思う。そのためには、自分を冷静に見つめる眼差しが欠かせない。実に教育するということは、自分が教育され成長していくということにほかならないのであるから。




Takapan
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