本

『伝わる短文のつくり方』

ホンとの本

『伝わる短文のつくり方』
OCHABI Institute
BNN
\2000+
2022.9.

 これはなかなか難しい本だった。デザインに関してプロ級の人のためのアドバイスであると思った。
 タイトルには「広告コピーから学ぶ」という冠がついており、サブタイトルとしては「「言語化のロジック」が身につく教科書」と記されている。これだけでも、ずいぶんと立ち会った内容であろうことが予想されることだろう。
 著者とされる「OCHABI Institute」についてだが、これは「お茶の水美術学院」「お茶の水美術専門学校」「OCHABI atrgym」という三つの学校の総称であるという。その紹介によると、「世界に文化で貢献する」という理念のもとに、クリエイティブ力を身につけた人材を世界に送り出しているものらしい。
 教科書とはいっても、その道のプロを目指す人たちのためのものであり、非常に抽象的な表現が貫かれている。もちろん具体例がないわけではないが、文章だけで示されるので、結局はかなり概念的な解説となっていると言えるであろう。
 テーマは「短文」である。Twitterに代表されるように、SNSの隆盛により、短文を提示することが時代の基本となっているように見える現在、いわゆる「コピー」も、短文により人の心をキャッチすることが当然となっているわけだろう。本書によると、3秒以内で読めない言葉には、人は入っていかないそうである。つまり、3秒より多く読むのにかかる言葉は、人々にとり、存在しないに等しいということなのだそうだ。なるほど、私がこのように綴っても誰も読まないはずだ。
 言葉は軽くなり、感覚的になってゆく。言葉によって人間は思考していたはずなのであるが、この傾向は、つまり人間は思考しなくなっている、ということを意味するのだろうか。
 これは広告コピーから学ぶとしている本だが、目的もまた、広告コピーであろうかと思われる。人の心を、短い言葉で掴む。その言葉が、その人の行動を起こす。購入や参加など、経済を動かす行為へと駆り立てられる。その意味でも、言葉は人をつくり、社会をつくる。そのための言葉をクリエイトするのが仕事である人々がこうしているわけで、それは社会を変えていく力を潜在的に有っている、ということにもなるのである。
 本書は見開き左側にまとまった説明があり、右側には、猫をキャラクターとした形で、なかなか象徴的な、あるいは抽象的なイラストが続いている。これもまたデザイナーの技である。その項目たるや、「伝えたい相手と頭の中でおしゃべりする」というように、素人でも分かるようなアドバイスもあれば、「自分は世界の中に生きていることを自覚する」というように、哲学的な課題も見え隠れする。「良いコピーを書くためにはメタ認知が必要になる」というのもそうだろうか。「コピーライティングの肝は「シズル」」というと、専門外の人間には分からなくなる。これは、購買意欲をかき立てるような感覚を言うらしいが、それは確かにそうだろう。
 最後のほうになると、「環境からのダイレクト情報によるアフォーダンス」というように、心理学をも駆使して、「オープンネットワーク脳」のように、スケールも大きくなっていく。それらが、必ずしも構造的に述べられているとは限らないので、いったいコピーライターのプロというものは、こうしたことをどのように組み入れてお仕事をされているのか、計り知れないとも思えてくる。
 最終的には「概念」や「幸福感」についての分析をするのだが、それは決して論理的になそうというものではなく、多分に感覚的なものを見据えつつ、だが表現は非常に抽象的な形でぶつけてくるので、難解である。それとも、その道の人には、うんうん、とすらすら納得できるようなことが書いてあるのだろうか。やはり素人には分からない。
 残念ながら、素人の身には「伝わる」内容ではなかったが、世を動かしかねないマーケティングの要素に、このような営みがあるのだ、ということに触れただけでも、面白い経験をさせてもらった。その奥義のようなものを、なんとか文章で伝えようとしたからこそ、本書は「言語化のロジック」というものであったのかどうか、それすらも私のような者には分からない。不思議な魅力の本であった。




Takapan
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