本

『つたえてください あしたへ……』

ホンとの本

『つたえてください あしたへ……』
エフコープ生活協同組合編
エフコープ生活協同組合
2012.6.

 これはたぶん、普通の書店では手に入らないと思う。エフコープ組合員による「平和活動募金」から拠出した費用で発行されている。確証はもてないが、生協のルートでなければ出会うことのない本ではないかと思う。
 組合員活動部の、いわば素人の方々が、努力して、戦争の記憶を集めた。表紙に「聞き書きによる被爆体験証言集18」とあるように、これらは聞き書きにより、文章化している。素人の目の高さで人々に接し、時に思い出したくもないことについて語って戴くということをしている。それでいて、本として何ら素人じみているわけではない。地図などの図版と、戦時中の「用語集」のまとめなど、的確な内容が網羅されている。本文には、すべて振り仮名が打ってある。発行された時点で、戦争は67年前に終わっている。被爆は1945年8月である。お歳を召した方が語る。そこへの取材上の配慮などの様子も窺える。ひとつひとつの証言の末尾に、取材者、すなわち聞き手の名前がきちんと載せられ、また話を聞いての感想やコメントが誠意をこめて綴られているのを見ると、どういう姿勢でこの本が生み出されているのか、よく分かる。人の誠意がこめられた小冊子であると感じる。
 広島で、あるいは長崎で、被爆した人の中にも、今福岡県に住む人は多い。エフコープという、福岡のFが付けられた生活協同組合である。福岡県の中で声を求め、その地まで訪ねて声を聞いている。広島で、長崎で、その日、自分は何を見、何をしてきたか。思い出したくないことも多々あるだろうに、それでも後世に遺すべき証言なのだということで協力を戴いている。この絶唱を、私たち若い世代は、しっかりと聞き、受け継いで、また次にバトンタッチしていかなければならない。
 すでに触れたように、戦時中の用語集もある。子どもたちがこの本を手に取っても、振り仮名はあるし、用語解説もイラスト入りであるものだから、時代を学ぶことができるし、当時の生々しい証言に、聞くだけでも苦しい思いがわき起こってくるかもしれない。しかし、語るほうはもっと辛いのだ。どんなふうな地獄を見たかを、今聞いても生々しく語っており、文章だけである故に、いっそう想像力を刺激され、ぞっとしてくるものだ。
 どの方も最後には、この戦争を繰り返してはならない、というような、若い世代へのメッセージを口にしている。戦争はいけない、絶対にいけない、と繰り返される。子どもたちに平和の教育をしなければならない、と言い続けているという声もある。戦争の記憶が風化していくのをたまらない思いで見つめている方がいる。そうした中で、特に私にとり印象に残ったのは、長崎で今修学旅行に来る小学校六年生に、体験を話しているという男性の最後のほうの言葉だ。「子どもたちには、一番残念なのはいじめだと話しています」と話している。いじめで人を悩ませ、自殺に追い込む。こんないじめこそが、戦争が起こるもとである、という話を小学生にし続けているというのである。広いものの考え方が必要なこと、人間形成にそれが欠かせないことについて触れて、聞き書きが終わっている。
 戦争の根は、誰にでもある。私の毎日に、あなたの日々に。自分は戦争をする人間ではない、しようとする一部の人間がいけないのだ、というふうに、私たちは考えやすい。まさか自分が戦争を起こす張本人だとは、普通考えていない。だが、私が誰かと諍いを起こしたとき、私が誰かのことを憎んだとき、嫌だと思う気持ちでその人と一緒にいるとき、それがまさに、戦争の基になっている。この点を捉え、根本に置くことがない限り、戦争はなくならない。そして、これが一番難しい。人間の罪性は、簡単に取り払うことはできない。
 主にもう八十を越えたお歳の方々の記憶がここにある。もう時間がふんだんに残されているわけではない。今、それをしなければならない。この声を正当に集めて、伝えていくことを。いや、まずとにかくこれらの声に耳を傾け、心で受け止めることを。そのことへの願いが、本の題名にこめられていることは、確かであろう。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります