本

『あなたに伝えたい』

ホンとの本

『あなたに伝えたい』
永六輔
大和書房
\1470
2000.10

 手話のコラム。NHKテレビで放送されていたものを文章にして本にしたもの。一回が2分と短いので、一息で読める。逆にその中にポイントを盛り込んで伝えるというのは難しい。短い文章、短いスピーチはよほど練られたものでなければならない。
 1994年から1999年の中での話題であるから、出版当初は新しいことも、今では古いニュースとなってしまった。だが、時事の話題を用いながらも、内容は普遍的なものを取り扱っている場合が多いため、決して古びた感じはしない。
 それよりも、このニュース、この本の特殊性が際立つ。それは、永六輔氏が喋る横で、丸山浩路さんが手話通訳をする、というコーナーだったからである。
 その手話が本に載せられているわけではない。だが、語る方は手話に注文をつけながら、しばしばおちょくって、果たしてこんなことが手話で伝えられるのかどうかという限界にわざと挑戦させるような話し方を意図的に仕組んでやっている。しかも、これはぶっつけ本番の収録なのだという。何を喋るか、手話通訳者は一切聞かされていない。突然話が始まる。それを、手話で伝えなければならない。しかも、ご存じのとおり著者は早口である。まくしたてる。通訳を待つことなどしない。なにせ2分間である。そして語る方も手話という者を知っている。手話で困難な言葉や駄洒落などを連発する。
 殆どいじめである。
 本の隠れた著者は、もちろんこの通訳者の丸山さんである。この人がなければこの本は存在しない。そのあとがきに、殺意さえ芽生えたというのは全く本当だろうと思う。  障害者だから、障害者のための仕事だから、殊更に遠慮しなければならない、そんな決まりはない。これは手話という媒体のための、挑戦である。著者は、そういう意味で全く差別することなく、この課題に取り組む。手話に何ができるか。手話とは何か。私たちに考える契機を与えてくれる。
 人の心に響くような内容があり、世の中に対する提言があり、なるほどと思いながら楽しめるのは確かだ。ちょっといじめすぎだなと思う場面も多々あるけれど、本当に手話というのは実際世の中のこうしたスピード、つまり聴覚障害者のことなど何も気にせずどんどん流されていく情報の川の中で、的確に即座に伝えていく必要があるわけであるから、敢えて丸山さんがその先頭に立ち挑戦しているのだというのは、決して嘘ではないと分かる。
 それはいいのだ。ただ、真宗の寺の生まれである永六輔氏の話である。仏教めいた話をする、というのはご自由なのだが、バレンタインデーがキリスト教の行事であるとか、キリスト教では人は死ぬと「モノ」になるとか、どうも誤解を招くような言い方でズバッと切り捨ててしまうのは、問題があると思う。さらに、それを「問題ではない」として放送し出版していくこの世相のほうにも、問題があるのだろうと思う。つまり、日本はキリスト教と反対だ、という前提である。前提があるものだから、どのようにでも対比できる。日本的でないものは、キリスト教的だという言い方をしておけば事が済むのだ。
 せっかく、福祉についての貴重な視点が盛り込まれている本である。こうした点に注意が払われていたのならば、もっと宣伝して差し上げたいものなのだが。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります