本

『計算力を強化する鶴亀トレーニング』

ホンとの本

『計算力を強化する鶴亀トレーニング』
鹿持渉
ソフトバンククリエイティブ
\999
2008.2

 理科系の啓発のために、サイエンス・アイ新書というシリーズがつくられた。手軽に読めて、得るところが大きい、というのが新書のメリットである。
 今回は、小学校の算数の内容である。図形ではなく、すべて文章題。
 この本は「ヒラメキで解く算数の世界」というサブタイトルがつき、「メダカカレッジ監修」とされている。著者の設立した会社であるらしい。
 どうして算数なのか。算数とは、たとえば方程式による解法を許さないで解くものであるが、それを著者は明確に、方程式だと解く過程でアタマを使わない、と述べている。もちろん小学生は方程式なしで解くものだが、これを大人が役立てるには、解く過程の意味を考えながら、アタマを使って解いていく必要があるというのだ。
 中学受験の算数の文章題の殆どを網羅していると言ってよい。その意味で、これは中学受験の六年生やその親が読んで学ぶこともできると考える。著者のひとつの信念のもとに著されており、その意味ではなあなあの出来というより、一本筋の通った説明や編集がなされていると言ってよい。
 見開きでひとつの話が完結するという、ひじょうに見易い方法がとられている。しかも右側にあるのは、ほとんどが図、たいていは線分図である。また、比の数字としていわゆる○なんとかという形で記されている。ときに黒板のような背景をあしらっていて、面白い。この図というのが、中学受験のポイントなのであって、方程式というシステムの形にあてはめて後は自動的に処理をするという方法と違い、つねにうまくやってやろうという眼差しと共に、ねちねちと解答に迫っていく姿勢は、ある意味でたいへん人間らしい。
 同じ中学受験を指導する立場から言わせてもらうと、好みの問題はあるだろうし、私だったら少し違う方法をとるかも、と思うことは当然あるが、この本はひじょうに役に立つ。子どもに対する説明としては、読んだだけでは少々分かりにくい書き方がなされているかもしれないが、それも大人向けの本であるからやむをえない。だが、そこそこの読解力をもつ小学生ならば、難なく読めることは間違いないし、その原理や背景が語られているので、まるで授業を聞いているような理解の深さが体験可能である。右頁の図や式がすべて手書きなのもいい。
 というわけで、これは中学受験のための隠れた良い参考書であると言えるかもしれない。
 ただし、本の題には文句がある。タイトルを「鶴亀」だけを出したのは、やはりその言葉に弱い大人向けのアタリなのであろうが、子どものためには、受験算数文章題の秘密、みたいなものをはっきり示すと、その方面によく売れるようになりえたのではないか、とも思われる。中学受験生を抱える親もまた、手に取る可能性が大なのである。
 この本は、タイトルにあるように、決して「計算力を強化する」ものではない。インド式計算を意識した販売戦略ではないかと予想するが、これはまずい。思考力そのものを身につけるための本であって、計算力というものとは別物である。著者は終始、「アタマを鍛えるトレーニング」であると繰り返しているから、この本のタイトルは、著者も不本意なのではないだろうか。売らんかなの編集部さん、タイトルは中途半端に流行を追うものではないと私は思うのだが。




Takapan
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