本

『岩波 日本語 使い方考え方辞典』

ホンとの本

『岩波 日本語 使い方考え方辞典』
北原保雄・監修
岩波書店
\3,000
2003.5

 書評というのは難しい。評者も人間であるから、当人の立場やニーズ、感情というものによって左右される。また、だからこそ書評というものが個性に満ちて面白いというのもある。この本についての寸評で、次のようなものがあった。
「売り文句として言葉の使い分けや言葉を考察するときの判断材料を強くアピールしていたが、実際手に取ると肩すかし。」
 ところが私は違う。こんな本を待っていた。これは従来のものに見られなかった、画期的なものだと感じた。
 それは、塾で国語を教えるせいである。子どもたちに、国語の知識を教えるときに、この本の説明や視点は、実に重宝なのである。ここに記してある通りに子どもたちに語れば、ずばり優れた説明、疑問の解決となるのである。
 よく問題になるのが、筆写字形が印刷の字形と異なること。「改め」の「己」の最後はハネてはならないし、「令」の最終画は縦棒ではだめで、点でなければならない。これが中学入試のための指導である。でも印刷はハネてるよ、縦棒だよ、と言われたらどうするか。そのための説得の方法は、たとえばこうだ。しんにょうや「入」を実際に書くとどうかと問えば子どもは納得する。だが、統一的な理由や背景を述べるとなると、難しい。それがこの本には、記されている。
 良い(「よい」と「いい」)はどう違うのか。湯桶読みの「湯桶」とは何か、「大地震」は「おお―」なのか「だい―」なのか。
 形容動詞の説明も、一発目から、小学生の受験生相手に語る調子そのままがずばりと書かれて説明されている。妙な気負いがなく、誰が読んでもああそうかと分かるような説明なのである。漢和辞典はどのようにして使うか。「じ・ず」と「ぢ・づ」はどう使い分けるのか。……挙げるときりがない。ちょっとした言葉の疑問、小学生でも考えてみれば不思議に思う日本語、漢字の不思議。それをおとなが説明するとなるとどうすればよいか、がこの本に溢れている。だから、何の気なしに見た人や学術的高邁さを求めた人は物足りなさや統一性のなさを感じることだろうが、国語の教師にとっては、何とも適切でありがたい説明の宝庫となっている。
 ちなみに、半濁音「゚」の記号は、江戸時代初期に、キリシタン宣教師らの手によって作られた『落葉集』という漢字・漢語辞書の中で使われたのが最初らしい。知らなかった。




Takapan
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