本

『仕える喜び』

ホンとの本

『仕える喜び』
チャールズ・スウィンドル
石塚八重訳
いのちのことば社
\1800+
1983.8.

 2007年に復刊したのを手にしたのだと思う。原著は1981年である。訳者の挨拶のようなものはない。著者だけは、かろうじてカバーに紹介されている。第一福音自由協会の主任牧師であるという。カリフォルニアの教会だ。ラジオ番組で有名らしい。どうりで、語り口調が柔らかで、事例に富み、文字として読んでもひじょうに読みやすい。また、確かに声が響いてきそうな気もする文の流れであった。
 テーマは「仕える」ことである。しかもそれが「喜び」であるというわけで、タイトルに偽りなしである。サブタイトルには「輝くしもべの10の秘訣」と冠せられている。
 内容は少しもブレないし、福音を伝えようという熱意に溢れている。昔は、このような安心できる教えの本がたくさんあった。近年のは、なにかいろいろなものを気にして、議論的に複雑な様相を帯びているような気がする。
 ともあれ、本書のような健全な読み物は、キリスト者の心を高めてくれるはずである。それが今風のクリスチャンには合わないと言われれば、それまでである。私にしても、明治時代の信仰の逞しさの前には、ちょっと引いてしまう気持ちがする。同様に、いくら私の目に望ましいと思えても、今は今でまた違うということであればそうなのだろう。
 それでも、ちょっとお薦めしてみたい。
 サブタイトルは訳者が決めたのだと思うが、それは本書が10の章に分かれているからだろうと思う。本書の営業妨害になるかもしれないが、それは紹介するに値するだろうと思う。
 1 私がしもべだって? 2 しもべ――自我を捨てる者 3 しもべ――与える者 4 しもべ――ゆるす者 5 しもべ――忘れる者 6 しもべの考え方 7 しもべの肖像 8 しもべの従順 9 奉仕の結果――苦しみ 10 奉仕の報酬  これらの章を挟んで、「はじめに」と「最後に」とがあり、筆者の巧みな備えと、手際よいまとめとが置かれている。見事な構成である。
 その中身はあまりここでは宣伝しないことにする。本書をお読み戴くのがベストであるからだ。さかんに「しもべ」と掲げるが、もちろんこれは元来「奴隷」と訳して然るべき語である。しかし、やはり「しもべ」でよかったはずである。キリスト者は、この語を、いつの間にか他人事のように用いるようになった。自分は別だ、自分にはそんなことはできない、と距離を置くようになった。否、それは私だけなのかもしれない。私が、あまりにも偉そうにしているからである。
 キリストの弟子として従う気があるのかどうか。まさにキリストは、私が仕えるように、弟子たちも仕え合うのだ、と命じたではないか。それが、愛し合うことなのだ、ということでもあった。
 だが、本書は、そこまでのレベルにも届かない。とにかく、仕えることとは何か、仕えるにはどう考えてゆくのか、手を替え品を替え、説いてゆくのである。しかも、何かしら勘違いしやすい考え方、世間でまかり通っている思想と、混同しないように、それらとの違いを明白に提示してゆく。とにかく読んでいくだけで、気持ちがよい本である。
 もちろん、聞くは易いが、行うは難い。精神的に超えていく高さは、並大抵のものではない。否、それは「高さ」ではないであろう。むしろ「低さ」である。どこまで低くなれるか――それとも、それは低くなるその自分さえもが消えて行くほどの、徹底した段階を踏まえているものであるのかもしれない。
 それでも、筆者は読者をあまりの無謀な世界に連れ込んだり、それを見せて怯ませたりはしない。まずはできることから、少しずつ。正に何かの手習いそのものであるかのように、読者を励まし、導いてゆく。その道標としては、常に聖書が置かれているのが心強い。導くのは、本を書いた人物ではない。神の言葉である。その信仰に貫かれているし、実際そうなっていると思う。
 特別に、カルト教団の利益になるような企みでなされているのではない。サブタイトルには「輝く」とあるが、要するに幸福が与えられるための最善の道だということなのだろう。自分も、幸福が与えられる。それはまた、他人をも、幸福にすることができる。えてして、自分だけの幸福を願い行動すると、他人を不幸に陥れることになる。しかしここではそうではない。
 自分本位の、チンケな喜びではない。神が与える喜びは、そんな貧しいものではない。聖書が信仰の中心であるのは、正しい。しかし、その聖書を、自分本位の解釈で読み解くことにより、それを最高位に掲げるということは、引いては自分を最高位に置くことになる。この罠を実感したことがある人は、信頼できるガイドを求めることだろう。相応しい説教もそうだし、自らの祈りや黙想というものも、よいと思われる。だが、よいガイドは、しばしば信仰の良書である。本書は、信頼してよいと私は思っている。




Takapan
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