本

『INTERPRETATION90 年をとるということ』

ホンとの本

『INTERPRETATION90 年をとるということ』
聖公会出版
\2000+
2015.9.

 聖書をテーマで区切り、最先端の観点から論じたものを掲載する、興味深いシリーズも、日本語訳については、出版元である聖公会出版の解散により、2016年以来ストップしてしまった。たぶんこれが邦訳の最終号であろうかと思う。なんとも皮肉な特殊であるかもしれない。ひとの終末期を扱っているのだから。
 年齢を重ねることへの精神の変化や心構えのようなものなど、聖書とは直接関係のないような観点のものも今回は載せられている。しかもアメリカにおける状況であるから、アメリカの社会的な問題が正面から論じられており、通常のニュースでは流れてこないものを見られて興味深い。およそ庶民の生活感覚については、報道で伝わってくることがない。政治か経済か、エンターテインメントかというあたりなら過剰な情報が来るが、アメリカ社会で一定の年齢に達した人がどういう思いで暮らしているか、社会に何を求めているか、またそうした人々を取り巻く社会の眼差しはどうであるのか、そんなことは、これだけの情報があっても、私たちは何も知らないのだ。その背後にキリスト教文化の考え方があるのは事実であるにしても、そしてだからこうした本にその論文が掲載されるのであるが、私たちは機会あるごとに、こうした地に足のついた人間の眼差しを取り戻す必要があるかもしれない。
 もちろん、聖書において年齢に関することがどのように扱われているか、という一番知りたい分析もある。すると、旧約時代など、ずいぶん早いうちに老年に達したと見なされていることが分かり、また実際寿命はいまとは比較にならないくらい短かったということになりそうであることが分かる。
 それから、次の世代に対してどのような責任を感じるべきなのか、また逆に次世代への倫理に無関心であることがどれほどよくないことであるのか、そんな倫理的な眼差しを以て世界を見つめようとする文章にも出会った。これは私も大きい問題として考えているものである。
 ほかにも、介護や葬儀そのものへ触れたものもあって、今回は内容が非常に多岐にわたり充実していたように見える。そうなるとなおさら、これが出版されなくなったということがもったいなくてならない。但し、私もよくない。中古書として格安でこれを購入しているからだ。これでは出版社の経営もよくなるものではない。なんら支援に関わることなく、追い詰めていった読者張本人なのである。
 最後にはいくつかの書評があるのだが、ここにも特集に関係のある本が紹介され、またこのレビューが非常に文章が巧く、面白いので、どうしたらこんなふうによい書評が書けるのか、いつも憧れの思いでこの欄を開くのであったが、ついにそれも新たにはしづらくなってきた。せめて、また古いものを掘り出してこようかとは思うが、確かに2000円という設定は、決して安いものではない。難しい問題だが、質の良い論文であるだけに、多くの人が手を出しやすい価格設定にはならないものか、とも思った。
 ところで、心理学的や社会学的に、老年は扱われていくのが通例であるが、教会の中でも、高齢化が盛んであるから、教会の高齢化問題についても、ほんとうはもっと話が出て来なければならないはずである。このシリーズのないのは残念であるが、私たちいまの教会で、またインタープリテーションを続けていき、議論を交わし、ただの議論のための議論ではなく、共に歩み出すための合意ないしは心の交流を図りたいものである。若いひとを教会へ、というのは広く一般的な教会での願いであるが、それは他方では、高齢に向かう人々自身が若い考え方をすることへと転換される必要があるように思われる。頑固一徹といった世代ではたぶんないものだが、私見では、緩く甘く、愚かな面が多々あるような世代ではないかと思われる。せっかくの戦後世代であるならば、因習に囚われない、柔軟な思考と受け容れる心を構えて、教会がいのちあるものとして続けていけるように、高齢者もまた、日々新しくされていきたいものだと願うものである。




Takapan
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