本

『図書館の神様』

ホンとの本

『図書館の神様』
瀬尾まいこ
マガジンハウス
\1,200
2003.12

 中学校講師をする若い作者が、その学校生活での経験を存分に活かした形で、すてきな物語を提供してくれた。
 こうした花が次々と咲いていくのは気持ちいい。また、世の中でもそうした才能を育て包んでいく空気があるというのはいい。平和だと思う。
 真面目で正義を貫いていた少女が、バレーボールに出会って夢中になる。たいへんな実力をつけてきたわけだが、あるときお情けで試合に出した補欠選手のために試合に負ける。練習試合だったので、勝ち負けはさして問題ではなかったが、少女はその選手にずいぶんきついことを言う。すると、言われ子が、自殺をしてしまった。
 それはあからさまに指摘されはしないにしても、自分のせいとされる。彼女は、田舎の大学に進み、バレーボールもきっぱりとやめた。似合わぬ文学部などを出たゆえに、高校の講師としての生活を始めるが、どだい本など読むよりは、汗を流していたほうが好きな性質だ。かったるい講師生活を続けていくことになるだけでも、苦痛だった。しかし、せめてバレーボール部の顧問にでもなるなら、と願っていたにも拘わらず、なんと顧問は文芸部。しかも部員はわずか一名の、生真面目な男子。顧問のほうが、文学については圧倒的に何も知らない。毎日放課後2時間、図書館で過ごすのは拷問のようだった。図書館に唯一置かれているマンガ『はだしのゲン』も読み厭きてしまった……。
 彼女には一歳下の弟がいて、何かと訪ねてくる。また、実はある男性と不倫の関係にあり、ただ相手が訪ねてくるのを待つばかりの生活もしている。かつての真面目さからずいぶん変わったものだが、どこか厭世的になっていたのかもしれない。
 そんな日々を描いていく。そして物語は、その文芸部の男の子との触れあいの中で、何かが変わっていくという流れである。
 軽快で、理解しやすいストーリーは、暖かな風を運んでくる。こんなことがあるだろうか、などという疑念も必要ない。学校という舞台を描くのは、ある意味で簡単だし、読者も通ってきた場所だけに、理解もされやすい。だからといって、すべてが受け容れられるわけでもない。好みもあるだろうが、自然で破綻のないストーリー展開に、どこか切ないような、そして心の奥をくすぐられるような思いを抱いたのは、私だけではないだろうと思う。




Takapan
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