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『糖尿病の名医が「血糖値」よりも大切にしていること』

ホンとの本

『糖尿病の名医が「血糖値」よりも大切にしていること』
玉谷実智夫
サンマーク出版
\1400+
2022.12.

 自らタイトルに「名医」と付ける辺り、怪しくないか。ひねた私はそんなところから手に取る。そう重いとは言えないが、私も当事者であるから、軽い気持ちで図書館の棚から手に取ったのである。というのは、こうした健康関係の本は、それほど信用していないし、だが参考になる知恵があればいい、という程度でぱらぱらめくることはあるからである。
 たいへん読みやすい本である。それは、情報量が多くない、ということでもあるが、分かりやすいのはよいことだと思う。エッセンスは、「楽しく生きよう」というふうにまとめてもよいのではないか。たぶんそれでも、著者はお怒りにはならないだろう。そして、これだけのことを言い切って、実際にクリニックによって庶民のために働いている著者は、やはり「名医」と呼んでよいのだ、といまは思っている。
 著者は、大阪で、糖尿病や脂質異常に関するひとつの専門という形で、多くの人々を治癒に導いているという。そのアドバイスを明かした本は、通院できない人にも大いに役立つことだろう。それをここで漏らさず明かすような無粋なことはできないが、本の宣伝になる程度のことはお伝えしてよいのではないかと考えて綴る。
 タイトルの通り、「血糖値」という数字が悪くなったら、なんとしてもそれを抑えることを目指せ、というタイプの考えではないことは当然である。「糖質制限」という言葉が頭を占め、「炭水化物」を無くせ、という指令が全身を包むようなイメージが、一般にはあるだろうと思う。私もそれは大切にしている。ただ、私はそれを苦痛には感じなかった。愉しむつもりでやった。たんまり野菜だらけの大皿を平らげることを面白がった。実際そうした食事をすると、気分がいい。
 著者に言わせると、その「愉しみ」というのがよいのだそうである。もちろん、適切な程度というものがあるだろうし、知識も必要である。闇雲に極端なことをすればよいというものではない。メンタリティがすべてを制するわけではないにしても、それは非常に重要なのだそうだ。本書は、気持ちの点を重視しているとも言える。
 しかし、それはただ気分なのではない。たとえば体重を量ることでも、日常的に行うことで自己管理をするとよいし、また、血糖値の中にその人の生き方が現われるという見方も大切にしている。その値を放置しておくとどうなるか、についても警告がたっぷりある。
 だが、それを考えることばかりで、ストレスを抱えてはいけないのだ。不安や焦りもあるだろう。だが、それに支配されてはいけない。だから、どのようにうまく改善生活を続けるか、そちらの方に視点をシフトするのである。
 野菜を先に食べること。良質のタンパク質を十分摂取すること。これはよく知られたことである。大いにそうすべきである。スイーツの誘いについて、上手に断る方法といった、実用的なアドバイスもある。こうしたものは、非常に分かりやすいのである。そして、実践すべきなのである。就寝直前の食事や糖質摂取を避けることや、運動をすること、これらは現場の医師も必ず指導する。その理由がきちんと説明されている、というのも本書の特徴である。
 ちょっとしたグラフがわずかにあるほか、イラストひとつない本であり、新書タイプで手軽なものの、価格が若干高いかしら、と思えないこともないが、それだけの価値はあると思う。終わりの方には、自身の生い立ちと、町医者をするに至る経緯が書かれている。論文が書けなかったことと、その後書いたものが認められたことなどもあり、実際その研究医としての働きは大したものであるという。宣伝しすぎのようにも見えるが、事実は事実として宣伝してよいだろう。ただ、そのような権威づけはなくても、易しく書かれてある本書は、多くの患者に光を当てることになるのではないか。
 もちろん、素人がこれだけの知識で治るのだと受け止めてしまうのも危険だ。合併症が怖いのがこの病気である。適度に抑えるための方法として、投薬もあってよいし、あるべきかもしれない。それはその人にもよるため、やはり医師の管理のもとに「血糖値」は幾度も調べるべきであろう。本だけですべてを治すというのではなく、それこそ正に「愉しい」気持ちで生活するための、きっかけとすればよいのである。




Takapan
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