本

『山の向こうの美術館』

ホンとの本

『山の向こうの美術館』
星野富弘
富弘美術館
偕成社
\1680
2005.4

 中学の体育教師として模範演技中落下し、頸髄を損傷。命はとりとめたものの、首から下が動かなくなった。その後、口に筆をくわえて絵を描き、味のある言葉を添えることができるようにまでなった。
 星野富弘さんは、つとに有名となっており、私がとやかく言う必要はない。入院中に洗礼を受け、神への信仰に忠実な僕の一人となった。
 たとえその描く絵が趣味に合わないという人でも、富弘さんの姿勢に畏敬の念を置かない人はいない。
 1991年には、故郷に自分の名を冠する美術館が完成した。2005年、建て替えて新しい美術館がオープンするにあたり、この本が記念として出版された。
 これまでに収録に漏れたものや、著者の子どものころの作文など、興味深い作品が満載されている。
 哀しいことに、そこには思い出話が多い。手足を自由に動かせたころのことが、ただ思い出としてしか語られないことが、どこか切ない気もするのだが、もちろんご本人はそんな感傷になどすでに打ち勝っておられることだろう。
 初めのほうの「渡良瀬川」という短い文章は、どこかの国語の問題として読んだことがある。出典が記されていなかったので、ここで出会って、また感動を新たにした。
 神は、様々な形を通して現れてくださる。この本の文章には、幾度も胸に迫るものを感じたが、終わりのほうの「聖夜」なども、淡々と綴る中に、想像力のある人なら誰でも、熱いものを感じることだろうと思う。
 子どもの頃の思いでの一つとしての「心の宝石」もまた、些細なことの記録でしかないのだが、人の心の深いところに届くものが潜んでいる。
 ファンの方ならずとも、何か自分を見つめざるをえなくなるような、輝きの文の数々に、触れてみられてはどうだろう。




Takapan
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