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『現役東大生がこっそりやっている、すごい!勉強のやり方』

ホンとの本

『現役東大生がこっそりやっている、すごい!勉強のやり方』
清水章弘
PHP研究所
\800+
2014.5.

 A4サイズの大きな本で、そこそこのページ数なのだが、その割には安く感じる。見開きの右が文章、左がイラストと図表というプレゼン的なもので、ビジネスハウツーもののような形式になっているのだが、中身は中学生あたりが実行可能な、学習のために役立つ方法がけっこう詰まっている。ただ、実のところそういう学習のみに限らず、ビジネスにおける自己啓発のような例もかなりあって、学生だけをターゲットとしているわけではないようだ。確かに表紙の上にも「勉強も仕事も、もっと効率よく、無理なくできる!」と描いてある。この辺りを踏まえた上で中を覗くと、発見も多いだろう。
 中はユニークである。教育方面のベンチャー企業を立ち上げた若手の著者であるということもあり、既成概念に囚われず、斬新である。自分自身で培った方法や体験がふんだんに盛り込まれている。
 そこには、理論というものはない。体験が殆どである。心理学的な裏打ちというものが特にあるわけでもない。だが、読ませるものがある。実際、私も体験的にやってきたことや、肯けることがたくさんある。正攻法に基づく勉強法にはない、型破りなものが、ともすればセンセーショナルに並べられているかのようだが、おそらく自分で勉強法を考案し、進んできた人には、かなり思い当たることがあるだろうと思う。ということはつまり、私たちは案外、正統的な勉強法ばかりで過ごしてきているわけではない、ということだ。そして、教育評論家や心理学者がしたり顔で提示するおりこうさんの勉強法におとなしく従い、その通りにやっているというわけではない、ということである。
 著者のせっかくのアイディアである。ここでいろいろ明かすことは遠慮するが、書かれてある楽しい学生の心理は、私も思い当たるふしがあるし、そうやって乗り越えたという実感もある。そして、中学生にも書いてあることは理解できるし、真似しようとすればできるものばかりである。時折、分かりにくいものもあるが、それが個性というものであろう。まことに、体験的なノウハウというところではあるが、読者としては、「なるほど」と思えるようなことについて、こういう人もいるのだと安心して取り組んでみるといいかもしれない。中には、気の持ちようというものもある。いや、案外それが多い。モチベーションを上げる、とでも言えばよいだろうか。また、心の準備をしておく、というような意味合いのものも多い。予め行き先を知り、地図を見ておけば、出かけるときにも安心できる、ということがあるだろう。訳の分からないところを連れ回されるというのと違い、頭の中に自分の位置が設定できるのである。
 聞いてみれば、たしかにそうだ、と思えるものも多いし、自分にはどうかな、と思えるものもあるだろう。何も、この本を信奉する必要はない。だが、他人の意見は面白いし、参考になることがあるのも本当だ。なかなかすべてを買うわけにもゆかないし、またその必要もないのだが、ちょっと書店で開いて見て、心が重なる内容が多ければ、購入してみるのもよいだろう。だが、これがやみつきになると、やたら啓発本に手を出す、つまらないビジネスパーソンになりかねないので、麻薬のように蝕まれないように気をつけなければなるまい。
 しかし、こういうハウツー本を本当に役立てることができるのは、同様の失敗を多く重ねた経験をもつ者だからこそ、という捉え方もある。しょせん、自分でいろいろな失敗を重ねて経験を踏まえなければ、方法の良さも欠点も、分からないのだ。その意味では、ハウツーにも王道はないのかもしれない。弁えておきたいものだ。




Takapan
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