本

『父子消費』

ホンとの本

『父子消費』
山岡拓
日本経済新聞出版社
\1575
2007.7

 個人的に、楽しめた。子どもに甘い父親が増えているというが、子どもと趣味を共有する、あるいは自分の趣味を子どもに半ば押しつけるかのようにさえしながら、楽しんでいる父親がこんなに多いとは知らなかった。
 私は少しばかりタイプが違うとは思うが、子どもと一緒に楽しむことがあるという意味では、近いものがある。やはり子どもも、父親が一緒に喜んでくれる対象に、傾いていくのである。
 そもそも、テレビのアニメなどに、やたらリバイバル的なものが多いことは、気になっていた。もう新しいものに魅力がないかのように、昔のアニメが再現されたり、そのシリーズを踏襲したりして、私たちの世代を巻き込もうとしていることには、気がついていた。おそらく、それを製作するメンバーが、自分のかつて熱中したものを企画して取り上げているからだろう、とばかりに考えていたが、人間、いくら郷愁が起ころうと、採算の取れないことを敢えてやり続けることはない。要するに、それが儲かると考えたからこそ、やっているのである。金になることなら、何でもするのである。
 昔のヒーローを出してくるのは、それが金になるからなのであった。
 こうした構造を最初に明らかにし、それから、次第に子どもを取り巻く市場構造について、明らかにしていく、というのが、この本の主眼であろう。父と子との関係をいわばきっかけにしながら、世代毎における考え方の違い、ライフスタイルの違いを意識し、その内部構造を明確に示すのが、目的ではなかろうかと思われる。
 そのための資料は、アンケートである。日経産業地域研究所が実施した、500人以上から集めたデータに基づいて、世代毎の考え方の違いなどを分析している。その資料の提示は、この本のかなりの頁を割いていて、意地悪な見方をすれば、資料の提示が主張より先走っているのではないかと疑いたくなるほどに、多くの資料が並んでいる。
 さすが、消費者の分析、社会構造の研究家である。主張自体は多岐に渡っているというよりも、限られているように見える。子どもの親の世代が、結局子どもの市場をも動かしており、そこのココロを捉えることによって、結局大きなビジネスができる、というヒントになっているとするのである。何も、家族分析から精神的な批判や検討を重ねようとしているのではない。何が売れるのか、という視点である。
 そのために、少し気になるところを述べておく。このアンケート調査である。巻末にその調査方法が一覧できるのだが、これらの調査は、二つのタイプに分かれる。一つは郵送法によって集められたデータで、一つが近畿圏を含んでいるだけで、すべてが首都圏の人々の声である。また、もう一つはインターネットによる調査である。
 これは、偏っていないだろうか。首都圏のほかがどうであるかは、データには反映されていない。あるいは、インターネットを使わない人の声は、データには反映されていないのである。少なくとも、首都圏の外で、インターネットに積極的でない人の声は、全くその中にないのである。
 たしかに、経済を大きく動かしているのは、首都圏の人々であり、インターネットを使うような人々であるかもしれない。しかし、それが、現代の消費者たちのすべてであるかのように、断言してよいのだろうか。もうこの調査だけで、すべて世代の者はこう考える、と断定的に述べられているのである。
 データは、かなり細かく分析されている。しかしながら、その細かさが、実は最初から制限された中で作られているとなると、はたして現代の家族が、このように代表されてよいのかどうか、私は疑問に思う。




Takapan
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