本

『ぼくが父であるために』

ホンとの本

『ぼくが父であるために』
松本康治
春秋社
\1680
2001.11

 妻が看護師。男の子の父親として、子どもを取り巻く生活を記すとなると、何か他人事には思えなくなる。しかも、何かはっきりしたものの言い方をする。雑誌の編集長として言論に関わり、ミニコミ誌に連載した子どもとの風景を加筆編集した本となっている。
 文章としては少しばかり読みにくいたどたどしさもあり、言っていることも時に「それでいいの?」と思えるところがあるなど、素人っぽさをふんだんに表しているけれども、それがまた、今っぽくて自然な感じでよいのかもしれない。
 だが、この人の視点というのが、どこか極端にも感じられ、その「はっきり言う」ということが、たんに自分以外の者への不満という形でばかり吐露されていくような傾きを感じ始めると、どうにも、疑問ばかりが立ちはだかってしまうように思えてくる。
 それでも、父親の子育ての姿というものが、そう表立っていない現状では、一つの貴重な子育て証言であることには変わりない。子育ての現状についても、女性からは見えにくいところ、あるいは言いにくいところなどが、そこかしこに現れてきている、と読むこともできる。
 阪神淡路大震災に遭っていることから叙述が始まることから、そのことに深く入っていくのかとも思われたが、そのことで特別な子育てになっていくというわけでもなかった。むしろ、後半に、思いもかけない方向へ突如話がトリップする。
 それをここで言ってしまったほうがよいのかどうか迷いがあったが、やはり伏せておくことにしよう。話が重くなり、そしてそう誰もが味わえないような境遇へと変化するのである。
 母親としての手記が出回る中で、もっと、父親としての手記が知られてもよいように思う。その中の、一つの特殊なケースとして、取り上げられることになるかもしれない、そんな本であった。
 それにしても、「元妻」という言葉が、それしか使いようがないかもしれない言葉であるという点を鑑みても、やたら度々使われているところに、微妙な心理を感じ取ってしまう読者という立場からすれば、どのように応援してあげてよいのか、分からなくもなるものである。




Takapan
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