本

『現代思想2023.vol.51-1 特集・知のフロンティア』

ホンとの本

『現代思想2023.vol.51-1 特集・知のフロンティア』
青土社
\1600+
2023.1.

 知のフロンティア。その見出しに続いて、「今を読み解く23の知性」とあり、23人の新進気鋭のメンバーないし分野が、ここにずらりと並んでいる。「創刊50周年記念」の名に恥じないラインナップであると思う。
 従来の「何々学」の範疇に収まらないような分野があり、また着眼点がある。同じ対象でも、違ったアングルから見ることにより、これまで気づかなかった風景が見えてくるということがあるだろう。
 いま、それを一つひとつ取り上げてご紹介する能力は私にはない。ただ、面白い点を言えば、全体が四つのジャンルに分かれていることか。「文明と倫理」「記憶と価値」「惑星と政治」そして「言語と物質」である。最初のものはまだ分かるが、およそ組み合わせた理由が難解なものが続いているように見える。だからこの分け方をとやかく言わないほうがよいだろう。
 マスク生活で他者の心を理解することにどんな影響があるのか、そうした視点はコロナ禍ならではかもしれない。近代仏教の特化した捉え方も、必要でありながら案外手薄であったかもしれない。それは東西思想をふんだんに織り込んだグローバル性を特徴としてもつのだという。ほかにも、新しい学習指導要領で『源氏物語』がどうなっているのか取り上げ、古典の価値を認識すべきだとする訴えは切実であるかもしれない。そのことで、自分というものを相対化できる視点を得ることは、かけがえのない経験となるのである。自分というもの、自分のもつ価値観を、古典という場所から捉えるのである。
 無意識の中の差別や偏見を私的することで、これからの社会の向かうべき道を提言することは、私たちの暗黙の了解であるような「知識」ということについて、反省を促すことにもなったことだろう。最後にあった「圏論」の、どこか高みに立った君臨ぶりには、驚きを隠せなかったが、果たして哲学をそれは凌駕したのかどうか、私には疑問が残った。
 このようにさらさらと触れても、あまり伝わらないものであろうから、少しばかり気になったところを深めてみよう。
 キャンセル・カルチャーという概念は初めて知ったが、歴史の中にある出来事を現代の価値観から正義に反するものとして認識した場合に、それをいわば抹消しようとする動きかのことであるという。そこには、キリスト教でいう殉教という概念も関わってくるという。それは迫害を絶対悪として描く手法である。この二元論は、確かに考察する余地がある。
 先ほど古典の中で価値観を相対化できるというメリットについて語ったが、もちろんそれは古典のみではない。欧米中心の世界観にどっぷりと浸かっているかもしれない私たちに、アフリカやアジアのことがどれほど常識となっているだろうか。否、その「アジア」という呼び方自体、日本とアジアを対峙させているという意味では、奇妙なのである。日本のアイデンティティは、どこにいったのであろうか。欧米に追いつけ追い越せという意気込みや、欧米コンプレックスなどというものが指摘されることがあるが、キリスト教についてさえもどれほどのものを知っているのか知れない。そのキリスト教を基底とする文化の眼差しにしても、敵に対する残虐性を宿しているかもしれず、しかもそれを正義とする心理があるとすれば、欧米の態度がベストであるかどうかは怪しくなるかもしれない。
 その聖書に関していえば、クリスマス物語にある、博士たちの来訪に関わる興味深い知の領域があると知った。天文民俗学という部門では、星の運行から何が起こるか予測するという文化が、各地にあるのだそうだ。記事の中には聖書のことが触れられていなかったが、それは思いつかなかったのであろう。聖書はまだまだ、日本の知のゾーンには馴染みがないようだ。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります