本

『筑豊の近代化遺産』

ホンとの本

『筑豊の近代化遺産』
筑豊近代遺産研究会編
弦書房
\2310
2008.9

 歴史的な遺産を紹介する本の出版が多い。世界遺産というほどの名が付くと、なおさら売れることがあるだろう。それに対して、筑豊というのはどうだろうか。
 この地味な企画に、熱を入れているこのような出版が、受け容れられる世の中であってもらいたいものだと感じる。
 筑豊は、私が個人的にも近しさを感じるところである。母方の実家が筑豊にあるため、小さなころよりそこに出入りしていた。もとより、その炭坑の時代というものを知るというほどのものではない。だが、田舎で私は、風呂を石炭で沸かしていた時代を経験しているので、筑豊という土地を無関係に感じることは、なくなっている。
 知られていない、筑豊の歴史がこの本に詰まっている。ときに目についたのは、十字架を掲げた旧医院であったり、第二次大戦の際に日本にて亡くなったオランダ人捕虜のための十字架の塔であったりするのは、私個人の観点であるが、それぞれの人がそれぞれの立場や関心から覗いてもらいたい本だと思っている。
 たんなる懐かしさからでもいい。日本の高度成長を支えたものは何だったのか、いや、高度成長とは何だったのか、さらに言えば、経済成長とは何なのか、歴史の中に問いかける役割も果たすのではないかとも思う。
 よくこれだけの資料を集めたものだと感動するが、それと共に、これだけの資料がこれまで外部にあまりまとまって紹介されていないのではないか、ということのほうが、深刻であるかもしれない。もちろん、これは炭坑が中心の歴史となるのではあるが、炭坑がすべてでもない。日本経済を築いた、汗まみれの人々の生きた証にもなっている。建物や地名などを振り返ることで、私たちはぜひ、そこに生きていた人の息吹を感じたい。その恩恵を、間違いなく私たちは受けているのである。




Takapan
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