本

『すてねこタイガーと家出犬スポット』

ホンとの本

『すてねこタイガーと家出犬スポット』
リブ・フローデ
木村由利子訳
かみやしん絵
文研出版
\1365
2003.6

 青少年読書感想文全国コンクールの課題図書となっていたので、図書館でも特別コーナーにあった。小学上級生用であったが、読書力のある子は低学年でも読めるだろう。ただし、味わうにはやはり高学年か、中学生以上の経験や語彙が必要かもしれない。
 ともかく、読んでいてなかなかドキドキさせられた点では、大人も読んで損はない。そもそも、幕開けでタイガーという仔猫が捨てられるシーンは、悲しい。悲しいというのは、ネコの気持ちになってというのもあるが、私たち大人が、そのネコを捨てる側の立場にあるからである。私たちは、自分の都合で、こうして他の生命をぞんざいに扱っているということを思い知らされるから、辛いのである。
 タイガーは、腹ぺこで森に捨てられて、まず食べ物に困る。さらに、一緒に捨てられた妹の死を間近に見る。絶望のような状況の中でも、動物は絶望しない。今を生きるしかない。作者も、動物ものに慣れているため、へたに動物に感情移入しない。動物の視点で、今あることを淡々と綴っていく。それがまた、どこか悲しい。
 タイガーは、犬と出会う。この犬の曰くについては、結末を楽しんで戴くために紹介しない。はらぺこ雌犬のスポットは、タイガーに乳をやり、共に苦労して生きていく。2匹とも人間に飼われていた身でもあり、人間に飼われていかないと十分食べることもできない。偶然のように、親切な人々に助けられ、そしてまた自らも人間たちを助けては、別れを経験していく。最後に出会った人の家出は、ついに子守の仕事を授かるという具合である。
 すでに触れたように、人間の心でなく、動物の視線で世界を見つめようとしてある文体がいい。多感で素直な若い時期に、こんないい作品に出会えるとなると、今の子どもたちは恵まれている。近くに宝はたくさんあるものだ。
 多くの子が、読書で心を豊かにしてもらいたいと願う気持ちを起こさせる本であった。




Takapan
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