本

『はじめての地学・天文学史』

ホンとの本

『はじめての地学・天文学史』
矢島道子+和田純夫編
ベレ出版
\1680
2004.10

 高校一年のとき、地学という授業があった。楽しかった。
 今は、地学を全く受講しないで卒業していく高校生が多々あるという。大学受験に関係ないとされることが多く、またそうでなくても、わざわざ地学教師を雇用しなくても事が済むように、という事情があるのかもしれない。
 科学史というものがあり、物理学史や化学史といったものも、巷では理解されている。だが、地学史というものに、確かに私は遭遇したことがない。タイトルの「はじめての」は、読者にとっての「初」ではなく、この広い世間に対しての「初」の思いがこめられているはずだ。
 地学に情熱を傾ける方々が、その点を憂えて、ここに地学の歴史を世に呈した。この意義は大きいと考える。
 私は哲学者としてのカントを知っているが、その際、銀河系の生成についてカントの果たした役割は小さくないということは、耳では聞いていた。だがこの本で、それが実に画期的であったことを、初めて知ることになる。宇宙が変化生成するものだという定見は、このときまでなかったのである。こうした「コペルニクス的転回」は、そう簡単に発言できるものではない。ガリレイは、そうやって裁判にかけられたではないか。科学のパラダイム変換が、地学や天文学の分野でどうなされていったかも、明瞭に記されている。
 大学の教科書のように書かれたこの本は、かなり専門的なことを、それなりに初心者向けにまとめて紹介している。また、参考文献欄も豊富で、次のステップに進みやすいように配慮されている。
 宇宙の創造は、いわば無からの創造のようだという意味の説明でこの本は終わっている。
 私たちが立つこの大地、そして私たちが生きるこの宇宙、それが、どこから来てどこへ行こうとしているのか、という問いは、そのまま、私が、どこから来てどこへ行こうとしているのか、という問いと並行する。
 編者や執筆者の、心がこもっているばかりでなく、哲学的にも実に有用なものとして、この本は人口に膾炙すべきであると考える。




Takapan
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