本

『ルビーの一歩 私たちすべての問題』

ホンとの本

『ルビーの一歩 私たちすべての問題』
ルビー・ブリッジズ
千葉茂樹訳
あすなろ書房
\1300+
2024.1.

 ちょうど、読む前夜、NHKの「映像の世紀バタフライエフェクト」という番組を見ていた。ビリー・ホリデイといえば、ジャズ歌手としてはもちろん、シンガー一般としても、歴代の上位にランクされる人である。その生涯を追いながら、その「奇妙な果実」は、20世紀の最大の名曲のひとつとも言われるが、それが黒人差別の酷い姿を表すものだ、という番組であった。これは、最近の差別反対運動においても、心の支えとなっているという。
 そのなんとももやもやとした心のままに、この本を開いたのである。いっそう暗い気持ちになるものではなかった。むしろ、あの番組のお陰で、本書の実態まで少し見えてくるような気がした。というのは、本書は、子どもにでも手に取れるようにふりがなまで打ってあるのだが、だからこそ、酷い写真を掲載するわけにはゆかない。しかし番組の方では、リンチの映像や写真が登場していた。私は、それを背景として、本書が本という形では描ききれない部分を胸に描きながら、読むこととなった。
 筆者はルビー・ブリッジズ。ひとりの黒人女性である。いまは公民権運動家である。生まれたとき、ようやくアメリカの法律は、黒人に道を開くことを始めた。そのため彼女は、白人専用だった小学校に、初めて黒人生徒として入学した、歴史的な役割を果たしたのだった。もちろん、それを単純に喜んでいる場合ではない。あたりまえのことが始まったに過ぎないのだが、それよりも、彼女の登下校は、白人警官に囲まれてなされるという、ものものしいものだった。そうした写真も本書には集められている。
 本書は、彼女の綴る当時のことの紹介や、黒人たちの声、その言いたいことなどが、歯切れ良い文章で綴られており、それが見開きの左側にある。右側は、資料的な意味をもつであろう写真が並ぶ。
 彼女は普通に小学校で学べただろうか。否、である。白人たち生徒の親がめちゃくちゃ反対した。子どもを登校させない措置をもとったし、教師も次々と辞めていった。他の生徒とは、肌の色しか違わないのに、という言葉が切なく響く。棺桶に黒人の人形を入れたものをデモンストレーションとして掲げて、親たちが小学校の前で抗議する写真もある。
 白人の担任教師バーバラ・ヘンリーは彼女の味方となった。彼女に教えるために2200kmの彼方からそこへ移ったのだという。先生は、一対一で教育を続けた。彼女は、学校は楽しい、と思えるようになった。先生は、本書発行時点でご存命である。
 家族に対する迫害も続く。しかし、それらを恨みつらみで記すようなことはしない。黒人差別との戦いの姿を、やがて大人になっていったルビーが描く。当然、キング牧師の運動についても紹介される。後には、オバマ大統領も登場する。
 ヴァエという女の子の友だちの言葉が紹介されている頁があった。子どもたちは、打ち解ける場合があったようでほっとする。その女の子は、「わたしたちはみんな、ふくろのなかのM&Mのチョコレートのようだといいました。外側の色はちがっていても中身はおなじなのです。M&Mのチョコレートは大好きでしょ?」
 しかしその直後にも、黒人への暴力事件に関する写真が並び。長男グレイグが銃の乱射事件で殺されたということも記される。
 それでも、キング牧師の言葉を掲げ、私たち皆が自由と正義を胸に、理想の世界へと踏み出すことができるはずだ、と確信をもって訴える。
 目をそらさないでほしい。最後にルビーはそう訴える。「歴史のなかで、あなたの「とき」がやってきたのです」という言葉が、読者の心に突き刺さる。突き刺さらなければ、嘘である。




Takapan
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