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『手塚治虫「戦争漫画」傑作選』

ホンとの本

『手塚治虫「戦争漫画」傑作選』
祥伝社新書081
\787
2007.8

 新書に漫画を収めるというのは、サイズ的にも驚くべき発想だった。普通、するなら文庫であろう。
 しかし、違和感はなかった。むしろ、上下が程よく開いて、読みやすかった。
 さて、手塚治虫が、戦争に対して、自分の体験からくる深い思いを抱いていることは、ファンなら容易に分かる。作品の随所に、しばしばさりげなく、戦争に対する問いかけや一定の命題が現れてくるからだ。
 だが、正面切って戦争を描いたというものは、確かにさほど記憶にない。この場合、戦争と呼ぶのは、もちろん1945年までの戦争のことである。
 それが集められた本、しかも厚すぎず薄すぎず、手頃な価格で読めるとあっては、新聞広告で見た瞬間、買わなければという思いに駆られた。
 いくつか、以前どこかで読んだような気もした。あるいは、デジャヴなのかもしれない。
 ストーリーテラーとしての持ち味を、どの短編も遺憾なく発揮している。それらは、たんに自分の体験を再現しているというものではない。どれも、事実通りではなく、最も効果的にするにはどうすればよいかと考え抜かれ、脚色されている。だが、それがまた、リアリティをもつように感じるのも不思議である。
 そう。それは、人間の中に深く刻み込まれている考え方であるがために、同じことがまた起こりうるという不安があるゆえに、リアリティがあるのかもしれない。
 どれもが、悲劇を背負っている。だが、それは対象化できる悲劇ではない、そう感じさせるのである。
 さして説教臭くないがゆえに、私たちの心が問いかけられているのを感じる。それがまた、手塚治虫の作品の魅力でもある。その漫画が良いとか悪いとかいうのではない。それが問いかけるものに、私たちがどう応えるかという関係を、私たちは見つめるべきではないかと思うのだ。
 それにしても、手塚治虫が今生きていても80歳というのだから、驚く。そんなにも、若くしてかの天才は逝ったのだ。「巨星墜つ」を新聞の何段抜きかで見たのは、私は初めてだった。
 手塚治虫だったら、今の世の中をどのように見ただろうか、という思いが、時折巡る。それは外れているかもしれないが、あながち悪い方向の思考法ではないだろうと考えている。




Takapan
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