本

『手塚治虫原画の秘密』

ホンとの本

『手塚治虫原画の秘密』
手塚プロダクション編
新潮社
\1470
2006.9

 手塚治虫という人のマンガが好きでも嫌いでも、この人が大きな仕事を成し遂げたことについては、異論はあるまい。
 天才とも呼ばれるけれども、その努力たるもの、想像を絶するものであったはずた。その一端が、この原稿というものの中にはっきりと見える形で現れてくる。
 そもそも、漫画家の原稿なるものを、目にする機会は、私たちにめったとない。印刷物として現れてきた結果しか見ないわけである。その最初には、絵コンテなるものが存在するであろうことなどは、最近様々な紹介で知られるようになってきたけれども、自ら描いてみたことのない人には、ピンと来ないものである。
 手塚治虫は、連載当時と、単行本化したものとで、えらく食い違う作品を遺しているのだという。それは、それぞれのケースにおいて、最大限ぎりぎりのところで演出をこなしているため、発行の立場が変わると、それに応じてなすべきことが悉く異なってくるものである。
 多分に、写真化されてこの本に、さまざまな原稿や、時に実に大まかなコンテ状態のものが紹介されている。それをたくさん見ることができただけでも、この本を開いた意味がある。
 切り貼りの様子や、決定稿の前に別の下書きが一度できて、それから思い直して書きかえるなど、納得のいくもののためには、手間を惜しまない。その実例が、この本全編に紹介されている。ファンが見たいのはもちろんのことだが、漫画家を志望する人は必読と言いたい。
 いや、ただマンガを読む立場の人も、作品として目の前に現れた原稿の背後に、どんなにか細かな検討がなされ、手間がかけられているかということを知ることにより、マンガだからと言って、寝転がって読むことなどできない、と思うようになるかもしれない。
 原稿そのものって、こんなにも汚いんだ、と知るだけでも、大きな収穫であろう。




Takapan
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