本

『手塚治虫キャラクター名鑑』

ホンとの本

『手塚治虫キャラクター名鑑』
玄光社
\4000+
2024.4.

 大判の、百科事典にも似た風体の本で、表紙からして多くのキャラクターが居並ぶ風景に、ときめいてしまう。
 手塚治虫は、私のマンガ生活の基本であった。テレビマンガが楽しかった時代ではあったが、私は本としてのマンガについては、手塚治虫が断然優位にあった。親戚の家に行くたびに、そこにあった愛蔵版の『火の鳥』を読ませてもらっていた。壮大なスケールのマンガは、その絵が楽しいのはもちろん、物語の中に完全に没入させると共に、私に「哲学」というものを与えてくれた時期だっただろうと思う。もちろん小さなときにはそれは意識していなかった。高校を卒業して、理系の受験で失敗したとき、授業でなんとなく楽しかった「倫理」という世界が「哲学」につながることが分かり、そちらへと針路を変えたのだ。そのとき、自分の中の手塚治虫という存在が、実はその基本なのだ、ということを自覚したのであった。
 哲学はそうして始まっていたが、『ブラック・ジャック』は私の人生の指南だった。全巻購入した。多くはない小遣いではあったが、連載が貯まると発行される単行本は、何か月かに一冊という割合なので、なんとか買えたのだ。幾度も幾度も読んだ。むしろ『火の鳥』を、文庫版で揃えてのは、大人になってずいぶん経ったときのことだった。
 本書は、そのキャラクターの紹介が主な目的である。「スター・システム」と称する手塚治虫の方法は、同じキャラクターが、別の物語の登場人物として機能するわけで、まるで1人の役者でもあるかのように、そのキャラクターが別の物語で全然違う役割を担って登場する。これは、読めば読むほど、思わずニヤリとするわけで、マニアックな心理を満足させる者だった。
 そのキャラクターと、主な出演作が挙げられているが、当然そこに四つ五つ挙げられた程度で終わるわけがない。私の場合は『ブラック・ジャック』は熟知しているため、大抵のキャラクターがそこに登場していたことを知っている。もちろん他の作品も多く目にしているが、繰り返し読んだことでは、それが一番だったのである。
 本書は最後に、「秘蔵作品集」と称して、伴俊作ものがいくつか、未完のものも集められている。貴重なものであるらしい。
 手塚治虫の文章もちらりとあり、とくに最初の「スター・システムについて」は、本人が記したその解説として味わい深い。ほかにも、マンガの描き方を初め、マンガによるもの、文章によるものなど、たくさんの著作がある。近年まとめられた、戦争漫画については、まとまった形で見ると、実に重いものを感じる。
 いまも思い出す。60歳で、入院後亡くなったことを知らせる新聞が、何段抜きか知れないくらいに大きな文字で、「巨星墜つ」と白抜きで出していた。一度お会いしたいというくらい、好きだった。人生を教えてくれた。しかし60歳だったのだ。戦争のときの苦労は、その戦争漫画に詳しいが、戦後も会社経営で苦しんだという。そのときの仕事ぶりについても、家族のことを描いた『マコとルミとチイ』にはもちろんのこと、いろいろなところで触れている。どれほどの教養をもち、知識を得、それを見事に自分のものとしてこなして創造していたか、とても人間業とは思えない。世界や日本の名作を熟知し、仏教にも聖書にも、深い学びをしていた。一生マンガを描いていたように見える生活の中で、どこでそれだけの本を読み、考え、生み出していたのか、全く以て分からない。
 実際のマンガのコマを集めながら、ひたすらキャラクターの一覧をつくる。これまでそんな本があったかどうか、私は知らないが、画期的なこの本、240頁ほどのものであるが、非常に価値のあるものに思う。ただ眺めているだけで、楽しい。そして、ここに自分の生きてきた道を思い起こすような気さえした。




Takapan
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