本

『朝子さんの点字ノート』

ホンとの本

『朝子さんの点字ノート』
河辺豊子作
大中美智子絵
小学館
\819
1995.4

 点字の本というのが、書店には実に少ない。皆無に等しい。そんな中で、大型書店にあった数少ない点字関係の本というのが、これであった。視覚障害者の立場から描かれた日常というのに、惹かれたのだ。
 フィクションと実話とを織り交ぜながら、リアリティのある、障害者の生活や考え方が綴られていく。日記という形式がそれを伝えるのに成功している。
 すでに『朝子さんの一日』という本があり、その後子どもをもうけての家庭の姿、として次の本が著された、というのがこの『点字ノート』の経緯であるという。どちらにしても、障害者の側からどう「見えるか」が、飾りや想像でなく、実際のものとして、描かれている。これが、いい。
 よく「共に生きる」と言われる。障害を負う人々のことを「かわいそうに」と思うことについては、何か違うんじゃないか、とこの本でも触れてあるが、たとえそう思わなくても、いつまでも、彼らのために、などと叫んでいるだけでは、結局彼らの側に立っていることではないままであるかもしれない。同じものを並んで見て、同じ方向を見るときに、共感が起こる、とも言われるが、障害者となにも同じ障害を負うのでないにしても、同じ場所から立って同じ景色を見る――もちろん五感の何でもいいし、心という目でもいい――、それが、必要な営みではないのだろうか、という気がしてくる。
 教えられることもずいぶんあったが、少し安心したのが、自分が視覚障害者に対してとっていた態度や行為が、概して間違ったものではなかったことが分かった点だ。この本には、Q&Aと称して、声のかけ方や、障害とはどういうことか、盲導犬にどう接したらよいか、など具体的な事態についての説明がふんだんにコラムとして載っている。これがまた、いい。
 制度的なことや、あくまでも健常者側からの取り組み、というのでなく、まるで一人の人格と触れあっているかのように、障害者のことが描いてあるという、コンセプトからしても、貴重な試みがここにある。最後まで、あたたかな心を保ちながら、読んでいくことができる、実に爽やかで、自分を成長させるのに相応しい本の一つであったと、胸を張って勧めることができる。
 まさに、サブタイトルにある通り、「目の不自由な人の心を知る本」なのであった。




Takapan
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