本

『ターゴの涙』

ホンとの本

『ターゴの涙』
早坂真紀
大庭賢哉・絵
光文社
\1365
2004.7

 切ない本である。物語がどう展開していくかについては、これからお読みの方のために、あまり露わにしないつもりでいる。ペットショップで売れ残り気味だった秋田犬のターゴが見た、ショップの風景、買ってくれた人のこと、それから体験することが描かれていく。それは、犬の体験、犬からの風景であるには違いないのだが、犬の立場からというよりも、人間の心に訴える、人間の言葉で綴られていく感じだ。つまり、この物語が、明らかに人間に向けて告げられているということである。
 そんなのは当然じゃないか、と思われるかもしれない。だが、動物の立場からの物語を読んでも、その動物の運命は、決して読者に責任を感じさせようとはしないのが通常であるのに対して、この物語は、読者の心に何かを突きつけてくる。
 もちろん、あからさまに、ではない。また、感じない人は、何も感じないかもしれない。私がそれを感じたとしても、私が物語に登場する人と同じことをした、というわけでもない。それでも私は、傍観者であることが許されないような気持ちになってしまう。
 不思議な魅力をもった本だった。
 右の頁がお話で、左の頁が絵となっている。この形式は、最後まで崩れない。それほどに、この物語は、絵がもはや挿絵ではなく、物語の半分を背負うものとなっており、さりげないそのタッチが、出しゃばらないこの犬ターゴのあり方をまたよく示しているとも言える。
 それとも、このターゴは、実は犬を意味しているのではないのかもしれない――そんな読み方は、邪道かもしれないが、私は子どもを見ていて、そんなふうに思った。




Takapan
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