本

『NHKにんげん日本史 田中正造』

ホンとの本

『NHKにんげん日本史 田中正造』
酒寄雅志監修
小西聖一著
理論社
\1890
2005.3

 NHK教育テレビの番組内容を一冊の本にしたもの。いっこく堂のアシスタントで、一人の人物がその都度紹介されていく。
 子ども向きであるということは、子どもに理解されること、子どもにとって自然な捉え方ができるということなどが求められるのかもしれない。その意味で、進行役のいっこく堂のお二人(?)は、テンポよく、ありがちな疑問を抑えつつ、話を進めていってくれる。  今回手に取ったのは、田中正造。「公害の原点、足尾鉱毒事件とたたかう」というサブタイトルの通りに、田中正造の生涯が紹介されていく。
 短い時間で、一通りのことをよく学ぶことができる点で、私は常に、大人の方々にも、こうした子ども向けの良い本を紹介している。大人の勉強とは、何も難しい本を繙くことばかりではない。物事を易しく書くことができるのは高度な技術をもった人々であり、このような子ども向けの本は、確かな技術で綴られた文章であるに違いない。その分、大人たちも、「理解」のためにエネルギーを浪費することなく、「思索」のために時間を費やすことができるようになる。子ども向けの本を、お勧めする理由である。
 さて、田中正造については、何をどうなどとコメントする資格は私にはないし、また、ある意味で今はあの時代とは異なる面もある一方、全く変わっていない面もあると思わされる。それは過去の話などではない。
 この本でも、小学生にも分かるような仕方で、経済効果のためには個人が否定されていく事実が、はっきりと語られている。権力が、個人の幸福を守るためにあるのだというふうな、権力者には都合のいいフレーズを鵜呑みにすることはできない、ということを学ぶ機会となる。
 田中正造といえば、遺品には聖書のほかは殆どなかったという逸話がよく語られるのであるが、この本には、彼の信仰生活については、全くと言ってよいほど触れられていない。確かに、信仰告白をしたのではなかったかもしれないが、若い日から人々のために立ち上がることの多かった彼が、聖書と出会ってどのように力を得たか、という問題には、あまり光が当たっていないし、ましてやこのくらいの量の本の中で触れるというのは、難しかったことだろう。
 いや、実際、聖書をことさらに取り上げる必要もないのかもしれない。聖書と共にある人が、そして私が、今の時代に何ができるか、しているか、が問題となってもよいのだろうと思う。




Takapan
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