本

『田んぼの楽校』

ホンとの本

『田んぼの楽校』
湊秋作
山と渓谷社
\1680
2004.5

 五年生の総合学習で、イネを育てることになった。親が田植えや稲刈りなどを手伝うが、基本は子どもたちが考え、決めて行動する。近くの農家の厚意により、田んぼの一画を貸してもらっているのだ。苗床も農家の方が引き受け、子どもたちも見学に行くのは行くが、子どもたちは田植えから始めるようなものだ。
 地元で農家出身などの保護者は、もちろんなんということのないものだ。だが、手伝いに行ってみて、その経験のない私のような者は、基本的に戸惑う。頭では分かっていても、実地体験がないからだ。私たちの小学生時代には、こうした体験授業はなかったのである。体験させるということに、賛成意見と反対意見とがある。後者は、一度だけ型どおりの体験でやった気になるのもどうかとか、全部お膳立てしてもらってちょこっとさわりだけするのが役立つのかとかいうものだ。まるで観光地での陶芸体験とか何とかみたいに。だが前者では、何であれ少しでも触れたことがあるのとないのとでは違うから、曲がりなりにも何かしておくことには意味があるというものだろう。
 一般論はさておき、田んぼで田植えをする機会など、一般市民にはなかなかないものだから、私は純粋に楽しむことにしている。子どもの教育のためなどと大上段に構えるつもりはない。ただ私が楽しいなと思う。だから多分、子どもも楽しいだろうなと思っている。その程度なのだ。
 だが、この本に出合ってよかった。これは、田んぼを使った、土の教育とでもいうのか、自然との直接的な触れあいを強力に推進する立場の教育者の考えを基に編集されたシリーズである。その中で、こんなことが書いてあった。
「なによりも、大人が楽しんでください。……子どもと一緒に泥んこになって、いろんなことを発見していってください。大人が率先して楽しむと、子どもはさらに目を輝かせて楽しみます。」(6頁)
 ああ、これでよかったんだ、とうれしくなった。
 図版も、解説も、実に楽しい。私は、たとえばテレビゲームを悪者にして、自然との遊びをしないなどと子どもを批判するようなことはしたくないと思っている。たぶん、おとな自身が子どもを土から遠ざけてしまったのであり、子ども自身は、誰でも土や自然、虫や花が大好きだ。だから私は、おとな自身が自然を楽しむことが一番だと思う。子どものためなどと綺麗事を言う必要もない。おとなが本を読めば子どもも本を読むであろうように、おとなが土や虫を楽しめば、子どもも土や虫を楽しむだろう。
 この本は、子どもに教えたいと漏らす偉そうな大人のためのものではない。子どもそっちのけで、おとなが楽しむための本ではないか。そうすることが、結局、子どもたちを逞しくしていくのではないか。おとなたちこそ、元気を出せ、と言いたくなる本であった。




Takapan
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