本

『たまには、やすんだら?』

ホンとの本

『たまには、やすんだら?』
Ton Mark
押切もえ訳
飛鳥新社
\1000+
2019.11.

 表紙からして、まずインパクトがある。ナマケモノらしい。白黒でベタ塗りのイラストである。よく見ると地面に沿って、「ナマケモノさんが教えてくれる 世界一かわいいマインドフルネス」と手描きの文字が流れている。帯には「読むだけでストレスがきえ、心が和らぐ物語」などと書かれ、「8カ国以上で出版! 海外ベストセラー」と波打った円の中に、メダルよろしく宣伝されている。さらに帯には、「あれこれ考えてしまう夜には効果大です どうか、あなた自身を優しくいたわってあげてください」とも書かれている。
 これほど見事に中身を打ち明けてくる表紙も珍しい。
 さらに、これが「押切もえさん初めての翻訳書」というからまた惹かれてしまう。文芸や絵画に才能を発揮しているようで、自ら執筆するものはあったがどうやら翻訳は初めてらしい。それがなかなか自然で、可愛らしい言葉となって訳されているから、本書の日本での評判は、この翻訳のせいなのかなぁとも思う。
 ひたすら頁の随所に登場するこのナマケモノさんというキャラクター、それは読者であるという。もしいまそうでなくても、将来の。あるいは、以前がそうだったという場合もあるかもしれない。このナマケモノさんをまねしてみませんか、という誘いかけから、本は始まる。
 しゃきっとする必要はないし、慌てることはないよ。ナマケモノさんは、いろいろな場面で描かれ、優しく語りかける。確かに、もうそれだけで癒やされる。この世で生きていくとなれば、急かされ、意識は焦り、じたばたしながらそんな自分に嫌悪感を抱きそうになる。しかしナマケモノさんは飄々と生きて活動している。のんびりでいい。すると、身近なところにある幸せも見えてくるだろう。見上げれば星がきらめいているように、また足元を見れば可愛い花を知ることができりように。
 いま、ここ、を大切にすることが一番さ。そんなことは、いろいろな人が言っている。しかしここでは地球上で動きがのろい動物のナンバーワンかもしれない、あのナマケモノさんが言っている。説得力がある。
 その呟きが、ぷつぷつとわずかな言葉と共に開かれていくのだが、特別に統一感があるということもない。思いつくままに、慰めの言葉を次々と切り出してくれる、といった具合だ。どこから開いても、最初から読んでも、さしたる違いか感じられないほどに、この本はどこからも入口になっている。これがまた、勤勉にお堅く最初から順に、という強迫観念に縛られた人を癒やすことになるのだろうか。そうあってほしい。
 マインドフルネスとは、まさに「いまここ」を大切にする生き方のことなのだろうが、心を満たすという効果と共に考えてもよいのではないか。まさにこの本は、「いまここ」を見つめることを勧めてくれるが、同時に自分の身体を意識し、またそこから自分の心にもちゃんと目を向ける様子も見いだされ、そこに充実感を覚えて心を休めようというふうてもあるようだ。
 結局、小学生がなんとなく呟くような、呑気な言葉が並んでいるだけのように見える本ではある。しかし、大人にはそれが貴重なのである。社会の激しい動きの中で、また離れられない人間関係の中で、あるいはいまならSNSなどのために奪われる時間と迫られる心理などで疲れている中で、大人はきっと、子どものときのような基本的に生き方が一番いい、などと望郷の如くに思うのだろう。でもそれを実行するのは確かにままならない。それでも、同じ忙しく仕事をしているにしても、心の持ちようはきっと変わってくる。何がどう変えるのかというメカニズムを知りたいというような好奇心も、もういらない。ただ自分が、やわらかな気持ちに、やさしい気持ちになれる気がするなら、それでよいのだ。その意味では、ここで目指されているのは「気の持ちよう」である。「気の持ちよう」に過ぎない。だが、幾ばくかの世間の不幸な事件や対立は、それだけで間違いなく減るだろう。世界平和に貢献するかもしれない。そんな可愛い本てある。
 贈り物にも使える。




Takapan
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