『妻を撮ること』
中村泰介
雷鳥社
\1680
2009.10.
なんとも不思議な魅力のある本である。
写真集だ。
妻が延々とそこに並んでいる。
時折、詩のようなもので言葉が綴られる。それもいい。写真を読者が誤解しないように、そして共通な一定の方向を見るように直してくれる。その上で、またこの妻の写真を見る。すると、心が暖かくなる。
プロのモデルではない。自分の妻である。しかも、被写体としてその心を写し出すには、まさに夫しかできないはずの仕事が、ここにある。なんと無防備で、なんとナチュラルな被写体なのだろう。
妻を愛している様子が伝わってくる。でなければ嘘だろう。
ならばそれはおのろけなのか。いや、そうでもない。
いつしか、この本の妻なる存在が、自分の妻、あるいは夫、子どもや親など、大切な人と重なってくることを覚えるようになる。自分の心の中に、大切にしなければならない人の存在が、もしかすると普段は当たり前の空気のようでありすぎて忘れていたようなその人のことが、この本の頁をめくるごとに、どんどん大きくなっていくような気がしてくるのである。
だから、不思議な魅力のある本だと呟いた。
写真を撮るという趣味をもつ方は、誰か大切な人を撮影し続けているだろうか。もしそうであれば、私のこの感想の文に、どこか共感して戴けるのではないかと思う。して戴けなくても、まあ私の感じたことは取り消せない。
写真の理論やテクニックというものも、当然あって然るべきなのだが、そうしたことを踏まえていることを感じさせないほどに、自然に、心をキュンとさせる何かをもつ写真集というのは、こういうものなのかな、と思うのだった。