本

『ただいま収蔵品整理中!』

ホンとの本

『ただいま収蔵品整理中!』
鷹取ゆう
河出書房新社
\1000+
2021.1.

 学芸員さんの細かすぎる日常。タイトルの一部のように表紙の中央に目立つ言葉がある。表紙のイラストは、中のマンガと同じキャラクターで、学芸員が用いる道具がデスクの上に鏤められて、一目でそれと分かるような仕組みになっている。とはいえ、学芸員という存在に関心がない人にとっては、これは何のことだろうと思うかもしれない。だからこそ、のアピールである。
 著者は学芸員の一人として、博物館のポスターや漫画を手がけている。おそらく日常的にそのような仕事をしながら、これらをひとまとめに博物館の背景をお知らせする本ができないかと考えたのではないだろうか。その種のマンガの連載もしているのだから手慣れている。学芸員の扱う道具や品々の描写が丁寧である。それに比すと、人物の描写は多少素人的なところもあるような気がするが、見づらいことは何もない。
 頁に四コマが2つ並ぶ形で、一冊すべて構成されている。時折イラスト付きで解説がなされており、学芸員の仕事の細かなところまで知ることができる。このように、本書は、学芸員の仕事とは何であるかを教えてくれる。啓蒙的役割があるかとは思うが、面白いストーリーとしてもなかなかのものである。
 作者は、「物語はフィクションであるが、作業内容自体は限りなく現実に近い」と断っている。一定の登場人物がいて、それぞれの立場が紹介され、四コママンガが展開していく。舞台は郷土資料館という、非常に地味な場所。私も近くの資料館には何度か行ったことがある。地方なので、入場無料であることから、子どもが小さい頃には時折連れて行った。残念ながら学芸員はいなかった。ただ展示があっただけであり、それは考古学の要素はあまりなく、民族資料という感じではあったが、昔のものを直に見るというのは、実はそうあるものではないし、私は好きであった。
 しかし知識を以て資料を扱い、展示するばかりでなく、修復や調査、分類整理など、手間のかかる気の長い仕事がたくさん待ち受けている博物館の仕事は偲ばれた。個人的にそういう仕事は、私も好きである。
 このマンガは、必ずしも一つひとつがオチをもって笑わせるというものではないが、実に正確にものごとを描いているのは確かだ。コマとコマの間には、用語の解説や作業の説明、事情の注釈などが実に大量に並んでいる。それを思うと、絵の面積を考えたならば情報量は相当多いものと見るべきだろう。その上絵があるから、百聞は一見にしかずというわけで、その仕事や道具などが実によく分かる。
 なかなか良い企画であることは間違いない。
 ただ、途中に呪いなどを含む超常現象のことが幾つも描いてあり、本当にそうなのかなぁと訝しく思われたが、確かに昔の曰く付きの品々をも拒まずそのまま収めるわけであるから、気味悪く感じることは多々あるだろうと思う。その気持ちから、異常と感じることに目が惹かれることもあるかもしれない。必ずしもオカルト目当てに描いたのではない、と作者も断っているが、だからそのように思うことも実際あるのだということがよく分かる。
 学芸員として出くわす問題や、裏話などがこれでもかというほどに盛り込まれているので、読むほうは、関心さえあれば退屈はしない。そして、こんなに苦労して日々資料を扱い、陳列させてくれているのだと思うと、感謝の心に満ちてくる。
 そこから、学芸員たちもいろいろなことを読み取り、知ることになるが、一般の私たちもまた、そこから得るものがなければならない。そこから、聞き取るものがあって然るべきであろう。
 今度から、博物館に行くときに、見る目が変わってくることは必定である。良い本をありがとう。




Takapan
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