本

『手話の絵事典』

ホンとの本

『手話の絵事典』
社会福祉法人全国手話研修センター監修
PHP研究所
\2940
2011.2.

 子どもを対象に、しかも図書館図書として作られたであろうものであるが、一般書店にも出回っており、個人的にこれを求めるのもなかなかよいのではないかと感じる。
 小学生が独りで読んでも、基本的な考え方をよく理解できるように工夫されている。が、可能ならば大人が付き添って一緒に開いて戴きたいと思う。大人もまた、このようなしっかりした基礎と共に学んでいくことは、たいへん重要であるからである。
 ひとつひとつの動きの意味が説明される。もちろん、紙の上で説明するというのには、どうしても限界がある。近年DVD教材が開発されているというが、空間における言語感覚をもつ手話においては、そのような手段はやはり必要なものであろう。
 たんなるレッスンの本ではない。手話や聴覚障害などについて理解するためのコラムも用意されている。あまり欲張った企画をとらず、最低限のことについて、しかもずばりと的を外さぬ挙げ方をすることが、こうした本の強みである。終わりのほうではあるが、「手話以外のコミュニケーション」という欄は私にはお勧めだ。何も、手話をすることがコミュニケーションのすべてなのではない。どだい、日本語手話ならともかく、日本手話を身につけるということは、全くろう者社会で暮らすということでなければ、聴者には困難なことなのである。そこで、手話を習得することが十分でなくても、そしてまた、手話を全くと言ってよいほど知らないにしても、ろう者と意志を通じさせ、心を通わせる手段がちゃんといくらでもあるということを認識することは、実はひじょうに重要である。何よりもまず、そちらのほうが手話そのものよりも、大切だと言えるのだ。
 それは、筆談・空文字・読話・発音・その他補聴器も有用であることがある。空文字でもよいのだ。これは、私自身、ろう者に出題されて、全部出て来なかった苦い経験がある。手話そのものに囚われる必要はない。問題は、コミュニケーションなのだ、と。
 それはともかくとして、手話を主体として、ろう者と通じ合おうとするこうした適切な本が出回るというのは好ましい。サブタイトルには、「気持ちをこめて伝えよう!」とある。まさに、気持ちが伝わることが求められる。そして、いつもそのような人々の立場を慮ることである。先日も、ラジオの良さを語るゲストが、歌の効用について述べるときに、聴覚障害者にとってはまたどのようであるか、ときちんと配慮した発言をしていたことに、感動を覚えた。様々な立場の人がいて、同じことについて、どういう気持ちを以て接しているのか、つねに頭に置いているからこそ、そうすぐに出てくるのであろうと思われた。私もそうありたいと思った。
 できれば、実際にろう者とふれあいながら、コミュニケーション力を育てて行くがいい。だから、この本もひとつのきっかけに過ぎないし、ひとつの学習に過ぎない。それにしても、子どもにも分かりやすいということは、難しいことだ。よい企画をして戴いた。もっと一般にも受け取られたらいいと願う。




Takapan
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