本

『修道院へようこそ』

ホンとの本

『修道院へようこそ』
ペーター・ゼーヴァルト編
ジモーネ・コーゾック著
島田道子訳
創元社
\1470
2010.5.

 サブタイトルがはっきりしていて、「心の安らぎを手にするための11章」となっている。原題は「修道院の静けさ」とでもいうような意味であるが、日本人相手ということを考えると、なかなかいい邦訳であるかもしれない。
 ドイツというからプロテスタントの国というイメージがあるだろうが、カトリックは全世界どこにでも進出しているし、ドイツにおいても実のところ半々くらいの人数だと言われている。そういえば2005年以降ローマ教皇はドイツ人である。このドイツの修道院に、35歳の女性編集者が飛び込んだ。
 こういうふれこみであったので、私は、俗世間から潜入した修道院がどんなふうにユニークなのかが描かれているのかと期待した。が、どうやらそうではない。本当に、タイトルにあるような静寂を求めてのことであったのと、本全体が、修道院の実に丁寧な体験的ガイドとなっていたのが新鮮だった。実に真摯に、この静けさを求めている様子が伝わってきて、修道院のルポでもあると同時に、そこでの道徳や規則を通じて、どんなに人生に必要な静寂が得られるか、それはどういうものか、細かく教えてくれる。まさに、修道院入門でもあるし、もしも実際に修道院に入れなくても、生活の中において心の平安を得るためにどういう知恵が必要で役に立つのか、そんなことがきちんと説明してあるのだ。
 そこで、事実上修道院やカトリック精神の宣伝になっているわけだが、本の目的とするところはだいたいそんなものであっただろう。それはそれでよいと思う。シンプルな装丁に、さりげないけれどもちょっと女性の心をくすぐるようなオシャレなデザインとなっていて、活字ばかりという状況に怯えを感じない読者ならば、とくに女性であれば、手に取りやすい本となっている。
 魂の癒しがそこに求められている。そのための秘策がたくさん紹介される。しかし、そこは修道院である。なるほど瞑想といった、日本人にも分かりやすいことを通じて説明されることもあるが、信仰や祈りといったことが当然のように前提とされている。それは修道院だからそうだろうということになるが、それよりも、著者たちが、キリスト教というものを当然の背景として生活している故に、当然のことをわざわざ問いかけ崩すようなことをしないという事情によるものであろう。日本であれば、仏教的な習俗や考え方をとりたてて説明しなければならないと本の著者はあまり考えないであろうのと同様である。
 だから、信仰をもつということも、いわば当たり前であるかのような書き方がしてあるように、読んでいるとどうしても感じてしまう。日本人が、座禅の親戚ででもあるかのように、修道院では修行がなされていて心の静けさを求めているなどと決めつけてしまう虞も十分にある。私はカトリック教会に属しはしないが、こういう私だからこそまた、この本を内容的に抵抗なくすうっと読めてしまうという事情があるかもしれない。キリスト教の内容について知らない人は、ひとつひとつの説明に、それは何かとひっかかってしまうかもしれない。
 とはいえ、むしろ私も見習わなければならないと思うのも確かである。何か音がないと気が済まないような生活をしている自分に、ほんとうの静寂と平安が実はすぐそこにあるはずだということを改めて教えてくれる。とりあえずお急ぎの方は、132頁からまとめてある、「安らぎを得るための秘訣」というところをお読みになれば、およそどんなことがこの本に描かれているか、見えてくるのではないかと思われる。でも、そこだけ立ち読みするくらいなら、ぜひ初めから目を通してみてください。




Takapan
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